「がん」2つ同時に発見!

体の中に複数のがんが生まれる──“重複がん”という現象をどう理解すべきか

がんと聞くと「一つの部位にできる病気」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。しかし、現実には人間の体に同時期あるいは時間をおいて複数のがんが発生する場合があります。この現象は 「重複がん」 と名付けられています。

がんと言われるだけでも衝撃的なのに、「二つも? 三つも?」と驚かれる方は少なくありません。しかし医療の現場では、重複がんは決して特殊なケースとはいえず、むしろ“起こり得るもの”として認識されています。

では、なぜひとりの人間に複数のがんが生まれるのでしょうか。どのような組み合わせが多く、なぜ発症しやすいのか。今回は重複がんのメカニズムと向き合い方について、専門的な背景とともに分かりやすく解説していきます。

■ “重複がん”とは何か──同時に起こる場合、時間差で起こる場合

■ “重複がん”とは何か──同時に起こる場合、時間差で起こる場合

重複がんという言葉には、実は二つのタイプがあります。

● 「同時性重複がん」

健康診断やがんの精密検査を受けた際、同じタイミングで複数のがんが見つかるケース。
胃カメラで胃がんが見つかり、CTで肺にも影がある、といった状況がこれに該当します。

● 「異時性重複がん」

最初のがん治療が終了したあと、まったく別の臓器で新しいがんが発生するケース。
再発や転移ではなく、新たに“別のがん”が誕生した状態です。

重複がんの発生率は2〜17%と報告によって振れ幅がありますが、“珍しいから教科書に乗っている現象”ではありません。特に日本では、がんと診断されると保険診療の範囲で全身の検査を受ける機会が多く、その結果として重複がんが発見されやすいとも考えられます。

中には二つだけでなく、三つ、四つと多発する例も。症例報告には「四重複がん」という、まるで論文のタイトルかと思うほどの重複例も記録されています。

■ なぜ複数のがんが生まれるのか──原因はひとつではない

■ なぜ複数のがんが生まれるのか──原因はひとつではない

一人の身体に複数のがんが発生する理由は“これひとつ”と言い切れるものではありません。むしろ複数の要因が積み重なって、初めて重複がんという結果が現れると考えられています。

● ① 遺伝的背景──“生まれながらのリスク”

がんの発症リスクを押し上げる遺伝子変異はいくつも存在しますが、中でも有名なのが BRCA1/BRCA2 と呼ばれる遺伝子です。

この遺伝子に変異があると、

  • 乳がん
  • 卵巣がん
  • 膵臓がん

などの発症リスクが同時に引き上げられます。そのため、乳がんの患者に別の部位のがんが見つかるケースは珍しくありません。

● ② ウイルスによる発がん

「ウイルスががんを引き起こす」と聞くと驚かれるかもしれませんが、医学的には広く知られた事実です。特に ヒトパピローマウイルス(HPV) は複数のがんの原因となります。

  • 子宮頸がん
  • 咽頭がん
  • 中咽頭がん
  • 口腔がん

同じウイルスが関連しているため、複数部位にまたがって発生しやすいという特徴があります。

● ③ 喫煙・飲酒──最も典型的なリスク要因

タバコとアルコールは、遺伝子やウイルスよりも圧倒的に“生活に近い”原因です。

喫煙者は肺だけでなく、煙が通り道として触れる部位のがんを同時に発症しやすくなります。

  • 喉頭がん
  • 食道がん
  • 咽頭がん
  • 口腔がん

これらは「煙が通るルートがそのまま影響を受けやすい」ため、重複がんとしてセットで見つかることがあります。

飲酒に関しても同様です。アルコールの代謝物には発がん性があることが知られており、

  • 食道がん
  • 咽頭がん
  • 肝臓がん
  • 大腸がん
  • 乳がん

などが重複して発生する可能性があります。

● ④ がん治療そのものが新たながんを生みやすくすることも

抗がん剤や放射線治療は、がん細胞を破壊するための力を持つ反面、長期的に見ると正常細胞に影響を及ぼし、新たながんが発生する可能性があります。「二つ目のがん」が治療後に現れるケースの背景には、治療の影響が隠れていることがあります。

● ⑤ 年齢・環境・生活習慣全体の積み重ね

細胞は年齢とともに修復能力が低下します。加えて、食事や睡眠、ストレス環境など、日常の生活要因が重複がんの発症に影響を与えることもわかっています。

■ 特に多い“重複しやすいがん”の組み合わせ

重複がんには特徴的な組み合わせが存在します。

● 消化管のがんは“お互いに重複しやすい”

胃がんと大腸がん、大腸がんと胃がん。
この組み合わせはとても多く、消化管全体が同じ環境要因にさらされやすいことが理由と考えられています。

胃がんと診断された方があとから大腸がんになったり、その逆も珍しくありません。食習慣の影響、広い粘膜面、遺伝子レベルの影響など複数の要因が絡み合っています。

■ 重複がんの予後──“二つ目のがん”が命に関わるケースが多い

■ 重複がんの予後──“二つ目のがん”が命に関わるケースが多い

重複がんの厄介なところは、最初のがんに治療が成功しても“そこで終わりではない”という点です。

研究によれば、重複がん患者のうち、

  • 13%は最初のがんで死亡
  • 55%は二つ目以降のがんが死因

というデータがあります。

これはつまり、二つ目のがんがより深刻な問題となりやすいということです。がんを患ったことがある人は、常に「別のがんが潜んでいないか」という視点を持つ必要があります。

■ がん患者が必ずすべき“重複がん対策”

重複がんを避ける最も確実な手段は「とにかく早く見つけること」です。そのために必要なのが次の二つです。

● ① 初回診断時の徹底した全身チェック

一つのがんが見つかった段階で、全身に他のがんがないか調べることが重要です。日本では比較的この体制が整っているため、早期発見につながりやすいと言えます。

● ② 治療後も「再発」だけでなく「新しいがん」も意識して検査を受ける

治療が終わったからといって安心してしまうのは危険です。

  • 喫煙者は喉頭・咽頭・肺など
  • 飲酒量が多い方は食道・肝臓など
  • 遺伝的リスクを持つ方は該当臓器

といった部位を中心に定期的に検査を受ける必要があります。

■ まとめ──重複がんは“怖れるための概念”ではなく“備えるための知識”

重複がんという言葉には、恐怖や不安がつきまといがちです。しかし、知識を持つことで適切な対策がとれるようになり、過度に怯える必要もなくなります。

重要なのは、

  • なぜ起こるのかを理解する
  • 自分に当てはまるリスク要因を知る
  • 検査を怠らない

という三つの意識です。

がんの治療は「ひとつ倒して終わり」ではありません。体の中の“次の敵”を見落とさず、早期発見につなげることこそが重複がんへの最大の備えになります。