がんに関する情報は世の中にあふれています。中でも特に多いのが「食事でがんが良くなるのでは?」という期待。インターネットを見れば、「糖質はがんのエサ」「糖質制限で腫瘍が小さくなる」といった刺激的な言葉が並び、がん患者やご家族が不安になることも珍しくありません。
では、糖質制限はがん患者にとって本当に良いのでしょうか。
この記事では、一般の方にも理解しやすい言葉で「がんと糖質制限の関係」を解説します。
誤解されがちなポイント、治療中に注意すべき点、どのような人に向くか/向かないかまで、丁寧にまとめていきます。

最初に大切なポイントをお伝えしておきます。
現時点の医学では、糖質制限を「がん治療として強く推奨する」根拠はありません。
もちろん、糖質制限が全くの無意味というわけではありません。しかし、がんを小さくしたり、寿命を延ばしたりする効果が明確に証明されたわけでもありません。
一部の研究では「がん細胞の増殖が抑えられた」という報告もありますが、人間を対象とした大規模研究は不足しており、確実な治療として位置づけるにはまだ不十分なのが現状です。

この説の背景には、がん細胞の特徴を示す「ワールブルグ効果」があります。
がん細胞は正常な細胞よりも多くのブドウ糖(糖質)を使います。この性質を利用して、PET検査という画像検査ではがんがよく光ります。
そのため、直感的にこう考えやすいのです。
がん細胞は糖が好き
→ なら糖を断てばがんは弱るのでは?
確かに筋が通っているように見えます。しかし、人間の体はもっと複雑です。
糖質を制限すると、肝臓がアミノ酸や脂肪から新しい糖を作り出します。
つまり、糖質を減らしても 血液中のブドウ糖は一定に保たれ、がん細胞だけが飢える状態にはなりません。
この点を理解せずに「糖を減らせばがんが死ぬ」と考えるのは誤解を招きます。
がん治療の世界では、効果を示すために厳密なルールがあります。
これらがそろって初めて「治療」として認められます。
しかし糖質制限については、そのレベルまで到達したデータはありません。研究途上の段階であり、世界中のがん治療ガイドラインでも糖質制限を治療の第一選択として推奨していません。
糖質制限は、がんとは直接関係しない部分でメリットを持つ場合があります。
● 糖尿病や高血糖を持つがん患者には有益なケースがある
高血糖や高インスリン状態は、一部のがん(乳がん、大腸がんなど)では腫瘍の成長を促す可能性があると報告されています。
そのため、糖尿病を持つ患者では、
などが治療の補助になる場合があります。
ただし、この「適度な制限」と「厳格な糖質オフ」を混同しないことが重要です。

むしろ大切なのはこちらの部分です。
① 栄養失調・体重減少・筋力低下
がん治療における最大の敵は 痩せること です。
糖質制限をすると、
が起こりやすくなります。
筋肉量が減ると、抗がん剤の副作用が強く出たり、治療を継続できなくなったり、感染症のリスクが上がったりします。
特に痩せ型の人や高齢者では非常に危険です。
② ケトン食の副作用
ごく厳しい糖質制限(ケトン食)は、
などの副作用が起こりやすく、がん患者には不向きな場合が多いです。
③ 抗がん剤・放射線治療との相性の問題
治療中は体力維持が何より大事です。
糖質制限によって体が弱ると、治療の中断につながる可能性があります。
世界的なガイドラインで比較的共通しているのは、次のポイントです。
● 糖質は「適度に」摂る
糖質を完全に抜く必要はありません。
むしろ、以下のような質の良い糖質は推奨されます。
白米やパンを“やや控えめ”にする程度で十分です。
● タンパク質はしっかり摂る(最重要)
がん治療中は筋肉が落ちやすいため、
などを意識して摂ることが大切です。
● 十分なエネルギーを確保する
痩せることは治療の妨げになります。
食べられるものを食べ、カロリー不足にならないようにすることが基本です。
がん患者にとって糖質制限が良いかどうかは、非常に個別性が高い問題です。
● 糖質制限が有益な可能性があるケース
● 糖質制限が危険なケース
ここを誤ると、治療に悪影響を及ぼすリスクがあります。
がん治療の中心は薬物治療、手術、放射線などの医学的治療です。
食事はそれを支える“土台”であり、間違った方向に走ると、むしろ治療の妨げになってしまいます。
糖質制限を試したい場合は、
と相談しながら、あなたの体に合った方法を探してください。
インターネットの食事療法に振り回されるのは本当にもったいないことです。
あなたの体調・治療内容・栄養状態に合わせた“無理のない食生活”が、最終的に最も健康を支えてくれます。