医学が進歩した現代でも、「がんのステージ4」と聞くと、多くの方は“治らない病気”“長くは生きられない”というイメージを抱かれるのではないでしょうか。しかし、実際にはステージ4と診断されながらも、治療を乗り越えて長期にわたり日常生活を送っておられる方が確かに存在します。本記事では、そうした“長期生存者”の実例をもとに、彼らに共通する考え方や行動を丁寧に紐解いていきます。
なお、長期生存者には明確な医学的定義はありませんが、一般的には「がんと診断されてから5年以上、あるいは10年以上生存している人」を指すことが多いとされています。とはいえ、“どれくらいを長期とするか”は人によって大きく異なり、1年を長いと感じる方もいれば、10年以上を基準とする方もおられます。
例えば、余命1年、すなわち生存期間中央値が12か月とされるステージ4の患者さんの典型的な生存曲線を見ても、多くの方は1年以内あるいは2〜3年以内に亡くなられる一方で、少数ながら5年以上生存される方が確かに存在します。今回は、そうした実例を3名ご紹介しながら、その背景にある共通点を探ってみたいと思います。

最初に紹介するのは、50歳のときに偶然肺に腫瘍が見つかり、精密検査の結果、リンパ節や骨に転移のあるステージ4の肺腺がんと診断された方です。診断後、この方は数多くの代替医療や民間治療を試みたものの、病状は改善せず悪化の一途をたどりました。
追い詰められた彼が辿り着いたのは、本人が“サレンダー体験”と呼ぶ精神的転機でした。“サレンダー”とは、闘うことを手放して「病気の存在を受け入れ、委ねる」という心のあり方を指します。諦めるのではなく、状況を一度受け止め、自分の身に起きていることを抗わずに引き受ける──そんな境地だったと本人は語っています。
その後、改めて標準治療に向き合う決心をし、医師に「遺伝子検査をもう一度してほしい」と依頼したところ、ALK遺伝子異常が新たに発見されました。そこで用いられたのが分子標的薬アレセンサ。これが劇的に効果を発揮し、肺の腫瘍はほぼ見えないほど縮小。さらに脳転移もほとんど消失しました。
現在も経過観察を続けながら日常生活を送られており、定期検査の結果でも腫瘍マーカーに大きな問題は認められていません。
このケースでの生還要因としては、次の二つが大きいと考えられます。
医学的効果とメンタルの変化が重なった稀有な例と言えるでしょう。
2人目は、60代で二つのがんを経験された方です。最初は胸水・腹水をきっかけに悪性リンパ腫ステージ4と診断され、抗がん剤治療と骨髄造血幹細胞自家移植を受けて寛解に至りました。
ところが、次は黄疸を契機に肝門部胆管がん(ステージ2〜3)が判明。肝臓の約3分の2を切除する大手術を受け、術後の回復も良好で無事に退院されました。現在も経過観察を続けながら仕事に復帰しておられます。
この方が強調されていたのは、「筋肉を維持することが、がん治療にとって大きな力になる」という考え方でした。特に紹介されていたのは“スロースクワット”をはじめとした、ゆっくりした動作を続ける「スロトレ」。筋肉を落とさないことで体力や免疫力が下支えされ、治療への耐性も高まると考えられています。
彼が語った「筋トレが自分を救った」という言葉は、多くのがん患者にとっても大切な示唆となるでしょう。

3人目は、45歳のときに進行がんと診断され、医師から「余命は約1年」と伝えられた方です。抗がん剤治療の副作用は厳しく、心身ともに追い詰められた時期もあったといいます。
それでも、この方には“絵を描くこと”という大切な生きがいがありました。治療と並行しながらカルチャー教室や大学病院で絵画を指導し、自身でも副作用と闘いながら大作を仕上げ、ついには念願の個展まで開催しました。
「生かされていることに感謝しながら絵を描くと、自然と力が湧いてくる」
「絵が自分を救ってくれた」
と語り、余命1年と言われながらも約7年の間、前向きに生き続けることができました。生きがいが持つ力の大きさを実感させられる例です。

今回紹介した3名は、病状・治療内容・生活背景こそ異なりますが、いくつかの重要な共通点が存在します。がん治療に向き合う多くの方にとっても示唆となる部分です。
①「生きたい」という強い願望
3名ともに、“生きることを諦めない気持ち”を持ち続けていました。医学的には説明しきれない部分もありますが、生への執着は治療への前向きさにつながり、生存を支える大きな力となることがあります。
②治療・医師との良い出会い
分子標的薬、移植、手術など、それぞれのケースで最適な治療法に巡り合えたことは非常に大きな要素です。これは運の部分もありますが、納得できる治療を求めて自ら行動した点も見逃せません。
③「自分でできること」を続ける姿勢
筋トレや趣味など、「患者として受け身になるのではなく、自分が能動的に取り組める要素」を持っていた点は3人に共通しています。体力維持も免疫維持も、本人の行動次第で大きく変わります。
④“生きがい”や“役割”を持ち続ける
絵画や仕事、夢の継続など、社会とのつながりを絶やさなかったことは精神面で大きな支えとなり、結果として生存期間にも影響を与えたと考えられます。
今回取り上げた3名の長期生存者に共通していたのは、「生きたい」という願い、最適な治療との出会い、そして“自分でできることを続ける姿勢”でした。がん治療は決して一人では戦えません。医療者、家族、社会との関わりを保ちながら、自分らしい生き方を追い続けること──これこそが長期生存を支える大切な鍵なのではないでしょうか。
がんのステージ4であっても、道が完全に閉ざされているわけではありません。今回の事例が、今まさに病気と向き合っている方にとって、小さな希望や勇気につながれば幸いです。