がん治療は医薬品・手術・放射線治療など医療技術の進歩によって大きな発展を遂げています。しかし近年、「患者自身の持つ免疫力」が予後(治療後の経過や余命)に非常に大きな影響を与えることが、さまざまな研究から明らかになってきました。
その中でもとくに注目を集めているのが NK細胞(ナチュラル・キラー細胞) の働きです。
NK細胞は人の体に存在する“生まれつき備わったがん監視システム”の中心で、がん細胞やウイルス感染細胞をいち早く見つけて攻撃する免疫細胞です。このNK細胞の強さが、がん患者の余命を大きく左右するのではないか――そんな考えを裏付ける研究が世界中で報告されています。
今回は、その中でも トリプルネガティブ乳がん を対象とした印象的な研究を取り上げながら、NK細胞とがんの深い関係を一般の方向けに分かりやすく解説していきます。
乳がんと一口に言っても、性質の異なるさまざまなタイプがあります。
その中でも トリプルネガティブ乳がん(TNBC) は特に注意が必要なタイプとして知られています。
トリプルネガティブとは、
この3つすべてが陰性(=持っていない)である乳がんを指します。
これらが陽性の乳がんでは、
といった“狙い撃ち治療”が使えます。
しかしトリプルネガティブ乳がんは これらの薬が効かない ため、抗がん剤を中心とした治療に頼ることになります。そのため他の乳がんよりも予後が悪く、特に若年層の女性に多いことでも知られています。
それでは、トリプルネガティブ乳がんの生存率を左右するものは何なのでしょうか?
その鍵のひとつとして浮上してきたのが 患者の免疫力、そしてNK細胞の働き なのです。

私たちの体には、毎日数千~数万もの「がんの芽」が生まれていると言われています。しかしその多くは発病しません。それは、体内で 免疫細胞が常にパトロールし、異常な細胞を排除しているから です。
NK細胞はその中でも最前線で働く強力な兵士のような存在です。
■ NK細胞の特徴
つまり、
NK細胞が強い人は、がんと戦う基礎体力が高い と言えます。
逆に、NK細胞が弱い場合はがん細胞が増えやすくなったり、治療後の再発リスクが上がったりする可能性があります。
では、実際のがん患者でNK細胞の量や活性の違いがどれくらい予後に影響するのでしょうか?
中国で行われた重要研究
2016年に学術誌「Cancer Science」に発表された中国の研究は、この疑問に答える重要な内容でした。
■ 研究の概要
その結果、患者は以下の2グループに分かれました。
■ 結果:NK細胞が多いほど生存期間が長かった
生存期間を分析したところ、
NK細胞の量が多い患者の方が圧倒的に予後が良かった
という結果が得られました。
つまり、
患者の体がどれだけ“がんを攻撃する免疫力を持っているか”が、余命に直結する という事実が示されたのです。
多くのがんで共通している“NK細胞の力”
興味深いのは、この研究結果が 乳がんだけに当てはまる特殊な現象ではない ことです。
世界中のさまざまな研究で、
など、多くのがんにおいて
がん組織にNK細胞が多く集まっている患者ほど長生きする
という傾向が繰り返し報告されています。
つまり、がんという病気は単に「薬が効く」「手術ができる」という医学的な要因だけでなく、
患者自身の免疫システムがどれだけ“がんと戦える力”を持っているか
によって大きく運命が左右されると言ってよいでしょう。

理由には以下のようなメカニズムが考えられています。
1. がん細胞の増殖を食い止める
NK細胞は異常細胞を見つけると即座に攻撃し、増殖を抑える働きがあります。
2. がんの転移を防ぐ
血液やリンパ液の中に入り込んだがん細胞を見つけて排除するため、“転移の芽”を摘む役割を果たします。
3. 他の免疫細胞を活性化
NK細胞が働くと、周囲の免疫細胞(T細胞・マクロファージなど)も刺激され、免疫の総合力が高まります。
つまりNK細胞は単独ではなく、
免疫ネットワーク全体を動かすスイッチのような存在 と言えるのです。
「それならNK細胞を増やせばがん治療が有利になるのでは?」
と考える方も多いでしょう。
確かに、NK細胞を活性化するための生活習慣や研究があります。
■ NK細胞を元気にする要因(医学研究より)
ただし、
「NK細胞を増やすとがんが治る」と断言できる科学的証拠はまだありません。
しかし、NK細胞ががんと戦う“主役級の存在”であるのは確かで、免疫療法や研究の世界でも大きな注目を集めています。

今回の研究は、がん治療における「免疫の重要性」を改めて示すものでした。
医療の世界では現在、
が進んでおり、将来的にはがん治療の新たな柱になると考えられています。
がん治療は“医療側の力”だけではなく、
患者自身の免疫力が大きく関わる
という視点は、今後ますます重要になっていくでしょう。