抗がん剤治療を受けている方や、これから治療を予定している方の中には、「薬の量を減らしても効果はあるのだろうか?」という疑問を抱く人が少なくありません。抗がん剤は、がん細胞をたたく一方で、副作用によって身体に負担がかかるため、治療の途中で薬の量を減らす判断が必要になることがあります。とくに手術後の補助化学療法では、患者さんの体力が低下している場合も多く、100%の標準量を最後まで維持することが難しいケースも珍しくありません。
では、抗がん剤を減量した場合、果たして治療効果は変わらないのでしょうか。それとも、一定量を下回ると効果が期待できなくなってしまうのでしょうか。今回ご紹介するのは、この問いに一つの答えを提示してくれる、2022年9月に科学誌 BMC Cancer に掲載された日本からの研究です。

膵がんは進行が早く、手術ができた場合でも再発のリスクが非常に高いがんとして知られています。手術後の補助化学療法として、日本ではS-1という飲み薬(5-FU系抗がん剤)が広く使用されています。S-1を一定期間継続することで、再発を防ぐ効果が高まることがわかっています。
しかし、副作用から薬を減量せざるを得ない患者さんも少なくありません。そこで今回の研究では、「どの程度の量まで減らしても効果が得られるのか」という点が調査されました。
研究は、防衛医科大学の外科によって行われました。対象となったのは、膵がんに対して手術を受けた97人の患者さん(中央値71歳)です。
今回の研究では「どれだけの量を投与できたか(=実際に飲めた総量)」に着目しています。
研究者は、総投与量の62.5% を一つの基準値として設定しました。この数値は、術後2年以内の再発の有無を予測する“カットオフ値”として算出されたもので、これ以上を「高用量グループ」、未満を「低用量グループ」としました。
この3つのグループで、再発までの期間(無再発生存期間:RFS)を比較しました。

結果は次のようになりました。
◆高用量グループ(62.5%以上)
無再発期間の中央値:53ヶ月
◆低用量グループ(62.5%未満)
無再発期間の中央値:20ヶ月
◆抗がん剤なし
無再発期間の中央値:25ヶ月
低用量グループは、抗がん剤を使用しなかったグループとほぼ同じ結果であり、統計的にも有意差はありませんでした。つまり——
総投与量が60%程度を下回ると、補助化学療法としての効果が十分得られない可能性が高い
と解釈することができます。
高用量グループでは明確に効果が出ており、再発までの期間が大きく延長されていました。
今回の研究結果は、膵がんに対するS-1単剤の術後補助化学療法という特定の状況でのデータですが、
●抗がん剤は「減量しても効果がある」という一般的な考え方とは異なる結果
●むしろ、ある程度の量を維持することが治療効果に直結している
ということを示していると言えます。
もちろん、副作用は患者さんによって大きく異なり、減量せざるを得ない状況は多々あります。無理せず治療を続けることは非常に大切です。しかし今回の結果からは、
●可能であれば60%以上の量を維持できるよう調整することが望ましい
●過度な減量は治療効果を下げる可能性がある
という重要な示唆が得られます。
ただし、今回の研究結果は、
という限定された状況に基づくものです。
他のがん種、別の抗がん剤の組み合わせ(レジメン)、進行がんの治療などには、そのまま当てはめることはできません。
たとえば、一部のクリニックで行われている「低用量化学療法(少量の抗がん剤を長期間使用する方法)」については、今回の研究から効果を評価することはできません

抗がん剤治療は、副作用と効果のバランスを取りながら進める必要があります。副作用が強く出てしまうと、生活の質が大きく低下してしまい、治療継続そのものが難しくなります。しかし、今回の研究が示しているように、
●一定の量(今回の研究では60%以上)を保つことが治療効果につながる
●過度の減量は再発リスクの上昇につながる可能性がある
という事実は、患者さんにも医療者側にも非常に重要な情報です。
治療中に副作用が出た際は、無理に我慢することなく主治医に相談しながら、減量、休薬、支持療法(副作用を軽くする治療)などを組み合わせることが大切です。そのうえで、可能な範囲で適切な投与量を確保し、治療を継続することが、再発を防ぐために大きく貢献します。
膵がんに限らず、がん治療は患者さんそれぞれの体調、年齢、併存症、生活環境に応じて調整されるべきものです。今回の研究は、その判断の一助となる貴重なデータといえるでしょう。