現代人にとって、腰痛は最も身近な身体の不調のひとつです。厚生労働省が行う国民生活基礎調査によれば、日本人の「有訴者率(自覚症状のある人の割合)」で腰痛は男性で第1位、女性でも第2位を占めており、全年代で約2800万人が腰痛に悩んでいると推計されています。さらに、生涯のうちに一度は腰痛を経験する人は約90%にのぼるとされ、まさに国民病と言っても過言ではありません。
本記事では、まず腰の構造についてわかりやすく説明し、そのうえで腰痛がなぜ起こるのか、そしてどう向き合っていくべきかについて丁寧に解説します。

人間の背骨は、首の頸椎(7つ)、胸の胸椎(12)、腰の腰椎(5)、そして仙骨・尾骨から構成されています。腰痛の中心となる腰椎は5つで、多くの人がこの「L1~L5」の間で痛みを感じます(まれに6個ある人もいます)。
腰椎は積み木のように積み上がっており、それぞれの椎体の間には柔らかい軟骨の「椎間板」が挟まれています。椎間板は衝撃を吸収するクッションの役割を果たし、腰の前後の動きを助ける大切な組織です。
さらに腰椎の下には仙骨と尾骨が位置し、骨盤を構成しています。腰椎は骨盤の上に乗る形となるため、体重の多くが腰椎にかかることになります。
背骨の一つひとつの中心には孔(椎孔)があり、それが積み重なることで「脊柱管」と呼ばれる長いトンネルができます。脊柱管を通るのが脳から続く太い神経の束で、胸のあたりまでは「脊髄」、腰の部分では細い神経が多数集まった「馬尾神経」と呼ばれる構造に変わります。
馬尾神経は、そうめんの束のように細い神経が集まった形状で、各椎骨の間から「神経根」として分岐し、脚や臀部へ神経を伝えていきます。
腰をひねる動作は、実は腰椎ではほとんど起こらず、胸椎や頸椎が主に回旋を担っています。このため、腰を過度にひねる動作は腰椎に無理をかけ、痛みの原因となることがあります。
腰の動きは骨だけでなく、周囲の筋肉が大きく関与しています。
前屈の主役は「腹直筋」、いわゆる腹筋です。その他にも腹斜筋、腹横筋といったお腹の筋肉が層をなして腰を前に倒す動きを支えます。
腰を反らす動きには「脊柱起立筋群」が関わります。背中から腰にかけて複数の筋肉が重層的に広がり、背骨を伸ばし、姿勢を保つ重要な働きをしています。

衝撃的なことに、**腰痛の約85%は「非特異的腰痛」**と呼ばれ、痛みの原因が特定できません。
レントゲンやMRIを撮っても「これが原因」と断定できないことが多いのです。
原因として想定されるのは、
などですが、明確に診断できるケースは少数です。
残り約15%は原因が明らかな腰痛で、内訳は以下の通りです。

有名なのはマッケンジー体操、クラウスウェーバー体操などで、目的に応じて
といった運動が含まれます。
ただし、原因が明確でないケースが多いため「この体操をすれば必ず良くなる」というものはありません。無理のない範囲で継続することが大切です。
腰痛には動かすと悪化するタイプが多く、そのため腰を保護する装具がよく用いられます。
強固なものほど痛みは軽くなる反面、生活が不便になるため、用途に応じた選択が必要です。
原因不明の腰痛では保存療法が基本です。
ただし、ステロイド注射は頻用すると組織を弱くする可能性があり、回数には注意が必要です。
多くの腰痛は時間の経過とともに自然に軽快していくことも多いため、「痛みのある時期をどう乗り切るか」が大切になります。
腰痛は国民の多くが経験し、その原因の大半は特定が難しいという特徴があります。それだけに、正しい体の仕組みを知り、無理のない運動や装具の活用、そして適切な保存療法を組み合わせていくことが重要です。
痛みが強い時期は焦らず、必要に応じて医療機関を受診しながら、長期的に向き合っていく姿勢が求められます。