
新型コロナウイルス感染症の流行以降、多くの方がワクチン接種を経験されました。ワクチンに関する情報は広範に広がり、健康に関する話題の中でも特に「がん」との関係は強い関心を集めています。中には、信頼できる根拠がないにもかかわらず「ワクチン接種後にがんが急速に進行する」といった不確かな情報がSNSなどで拡散され、不安を感じる方も少なくありません。
実際のところ、現時点で「新型コロナワクチンによってがんが進行する」という医学的な報告は確認されていません。しかしながら、ワクチンの接種後に検査で異常が疑われるケースがあることが複数の論文で報告されており、特に PET(FDG-PET)検査で“偽陽性”が起きる可能性 について注意喚起がされています。本記事では、その代表的な症例や研究報告をもとに、なぜ偽陽性が起き得るのか、どのようなことに気を付けるべきかについて丁寧に解説します。
PET検査は、がんの転移や再発を確認するために広く用いられる画像検査の一つです。ブドウ糖に似た物質を体内に投与し、その集まり具合を調べることで、がん細胞のように代謝が活発な部分を可視化できます。しかし、代謝が活発になるのはがんだけではなく、炎症や免疫反応でも集積が強くなることが知られています。
ワクチン接種後は、体が免疫をつくるために一時的にリンパ節が腫れることがあります。この反応自体は自然な免疫反応ですが、PET検査ではこの炎症による代謝亢進が「転移のように見える」場合があり、これが偽陽性につながるのです。
海外の医学誌に紹介された乳がんの症例では、定期的にPET検査を行っていた患者が、ある検査時に左わきの下や胸部のリンパ節に集積の上昇が確認されました。画像上は再発が疑われる所見でしたが、後日行われた超音波検査では、リンパ節は正常な形状で、転移を示す所見は見られませんでした。
患者に詳しく話を聞いたところ、PET検査の約1週間前に左腕へワクチン接種を受けていたことが判明。ワクチンに対する免疫反応が一時的なリンパ節腫脹を引き起こし、それがPETで陽性のように見えたと結論づけられました。
日本国内でも、乳がんの患者がワクチン接種後にわきのリンパ節が腫れ、転移が疑われたものの、組織検査ではがんではなかったという類似の報告が複数あります。
別の報告では、前立腺がんの患者がPET検査で全身のリンパ節に集積の増加が見られ、広範囲の転移が疑われました。しかし、その数週間前にワクチン接種を受けていたことが確認され、治療は行わず経過観察となりました。すると、約14週間後の再検査では、腫れていたすべてのリンパ節が小さくなり、集積も減少。こちらもワクチンによる一時的な免疫反応と考えられています。
がん患者140人を対象にした研究では、ワクチン接種後平均17日でPET検査を受けたところ、 54%に接種側の腋窩リンパ節でFDG集積の亢進 が見られたという結果が示されています。さらにワクチンの種類別に見ると、モデルナ製で72%、ファイザー製で43%と、製品によって割合に差がありました。
この結果は、「ワクチン接種後のリンパ節腫れは珍しいものではなく、PET検査で陽性のように見えることが十分に起こり得る」という重要な事実を示しています。
こうした背景から、PET検査を控えている方や定期検査を受けている方は、次の点に注意することが大切です。
接種日・接種した腕の側・ワクチンの種類などは、PET検査の結果を読み解く上で非常に重要な情報です。
可能であれば、ワクチン接種直後の時期を避けて検査を行うことで、不必要な追加検査や不安を減らせます。
SNSや噂だけを根拠に判断せず、疑問があれば医療機関で確認することが安心につながります。

新型コロナワクチンは、世界中で多くの研究が行われており、その効果や副反応についても情報が蓄積されています。がんとの直接的な因果関係を示す報告は現時点では確認されていません。しかしながら、ワクチン接種後の免疫反応によってPET検査で偽陽性が生じる可能性があることは、複数の症例報告や研究から明らかになっています。
検査結果を正しく解釈するためには、患者自身が接種歴を医療者に正確に伝えること、そして医療者側もその情報を踏まえて慎重に判断することが重要です。本記事が、必要以上の不安を抱えず、適切な医療判断につなげるための一助となれば幸いです。