がんに伴う腹水:原因、治療法、予後

がんに伴う腹水:原因、治療法、予後

がん患者さんの体に起こり得る代表的な症状の一つに「腹水(ふくすい)」があります。
普段あまり耳にしない言葉ですが、腹水の存在は患者さんの生活の質(QOL)を大きく下げ、治療中の体調にも影響することがあります。

「お腹が張って苦しい……」
「体重だけ増えてくるけれど、むくみとは違う?」

そんな違和感の裏側に腹水が隠れていることもあります。

今回は腹水の原因・治療法・そして予後(今後の見通し) について、一般の方にもわかりやすく解説します。

そもそも腹水とは?

そもそも腹水とは?

腹水とは、お腹の中の「腹腔(ふくくう)」という空間に水がたまった状態です。腹腔とは、胃・腸・肝臓・膵臓など内臓が収まっているスペースのこと。

通常でも、ごく少量の液体が存在していますが、
がんや肝臓病などの影響でそのバランスが崩れると、液体が異常に増えてしまいます。

腹水が増えると、次のような症状が出てきます。

  • お腹が張る
  • 息苦しい
  • 食欲低下
  • 体重が急に増える
  • 立ち上がったとき、お腹の中で水の動く感じがする

進行すると、座っているだけでも苦しくなり、日常生活に支障が出ることがあります。

がん患者に腹水が溜まる原因とは?

腹水がある=がんが進行している
と考えられがちですが、原因は多岐にわたり、必ずしも「がんの悪化」とは限りません。

以下に代表的な原因を詳しく解説します。

1. 腹膜播種(ふくまくはしゅ)・がん性腹膜炎

もっとも多い原因がこれです。

がん細胞が腹膜(お腹の内側をおおう膜)に転移し、炎症を起こすことで腹水が増えます。これをがん性腹膜炎とも呼びます。

腹膜播種を起こしやすいがんとしては、

  • 卵巣がん(とくに多い)
  • 子宮体がん
  • 大腸がん
  • 胃がん
  • 膵臓がん
  • 乳がん
  • 原発不明がん

などがあります。

腹膜にがんが広がると、腹膜の機能が低下し、水分を吸収する力が弱まり、腹水が溜まりやすくなります。

2. 肝硬変や多発肝転移

肝臓の状態が悪くなると、門脈という血管の圧力が上昇(門脈圧亢進)し、腹水が生じます。

  • もともとの肝硬変
  • 肝臓に多数の転移がある

このような場合に腹水が起こりやすくなります。

3. 低アルブミン血症

アルブミンは血液中のタンパク質で、水分を血管内に留める役割があります。
アルブミンが低下すると、水分が血管外へ漏れやすくなり腹水の原因に。

がん患者さんは、

  • 栄養不良(食欲低下など)
  • 体重減少
  • カヘキシア(がん悪液質)

などでアルブミンが低下しやすく、腹水が生じることがあります。

4. 腹膜炎

感染や炎症が腹膜に起こることで腹水が増加するケースもあります。

5. 手術後の影響

がんの手術後、一時的に腹水が溜まることがあります。
ほとんどの場合は時間とともに改善します。

6. 原因不明

はっきり原因が特定できないケースも存在します。

腹水が「がんによるもの」かどうかをどう判断する?

腹水が「がんによるもの」かどうかをどう判断する?

腹水の原因を特定するために行われるのが 腹水穿刺(ふくすいせんし) です。

細い針を使い腹水を少量採取し、
顕微鏡で「がん細胞が混ざっているか」を確認します。

  • がん細胞がある → 悪性腹水
  • がん細胞がない → 他の原因の可能性

ただし、腹水にがん細胞が見つからない場合でも
腹膜播種が存在しているケースもあるため、画像検査も併用して診断します。

腹水の治療は何をするのか?

腹水に対する治療は、大きく分けて2種類あります。

  1. 腹水そのものを減らす治療(対症療法)
  2. 原因となるがんを治療する(根本療法)

以下に代表的な治療法を紹介します。

1. 食事療法

がんによる悪性腹水に「特効的な食事療法」は存在しません。
ただし、がん患者さんは、

  • 栄養不足
  • アルブミン低下
  • 体重減少

が進みやすいため、できる範囲で栄養を摂ることが大切です。

「塩分制限」は肝硬変に伴う腹水には役立ちますが、悪性腹水には効果が限定的です。

2. 輸液の調整

点滴の量が多すぎると腹水が増えることがあります。
医師が全身状態をみながら、必要な量に調整します。

3. 利尿剤(尿を増やす薬)

利尿剤は腹水を減らすために頻繁に使われます。

ただし、

  • 悪性腹水では十分な効果が得られにくい
  • 電解質異常(血液中の塩分バランスの乱れ)に注意が必要

という点があります。

4. 腹腔穿刺(ふくくうせんし)

お腹に針を刺して腹水を抜く方法です。

メリット:

  • すぐにお腹の張りが改善する
  • 呼吸が楽になる

デメリット:

  • 数日〜数週間で再び溜まることが多い
  • 抜きすぎると血圧低下のリスクあり

繰り返し行われることも多い治療です。

5. 腹水濾過濃縮再静注法(CART)

腹水を体外で濾過し、栄養分を濃縮して患者さんの体に戻す方法です。

  • 栄養を保持しながら腹水だけを減らせる
  • 病院によって実施の可否が異なる

悪性腹水対策として選択されることがあります。

6. がんそのものを治療する(抗がん剤など)

根本的な治療は がんを抑えること です。

抗がん剤が効くタイプのがんでは、
腫瘍が小さくなることで腹水が減るケースがあります。

代表例:

  • 卵巣がん
  • 一部の大腸がん
  • リンパ腫
  • 乳がん(一部)

特に卵巣がんは化学療法がよく効くことが知られています。

腹水がある場合の予後は?

一般的に、悪性腹水が生じた場合の平均予後は 4か月未満 とされています。

ただし、これはあくまで統計的な数値であり、
個々の患者さんによって大きく異なります。

特に、

  • 卵巣がん
  • 悪性リンパ腫

は治療の効果が出やすく、生存期間が大きく延びるケースも珍しくありません

また、近年はがん薬物療法の進歩により、
腹水があっても長期間安定して過ごせる患者さんも増えています。

腹水は「予後の終わり」ではない

腹水は「予後の終わり」ではない

腹水が見つかると、多くの患者さんが不安を感じます。
「もう治療ができないのでは?」
「最終段階なの?」
と心配される方も多いです。

しかし、重要なのは以下の点です。

  • 腹水の原因はさまざま
  • がん治療で改善する場合も多い
  • 対症療法でQOLを大きく改善できる
  • 予後はがんの種類や治療法で大きく変わる

不安になったときは遠慮せず主治医に相談してください。
腹水の治療は選択肢が多く、病院ごとに方針が異なることもあります。必要であれば セカンドオピニオン も有効です。

まとめ

腹水はがん患者さんに多く見られる症状ですが、原因や治療法は多岐にわたります。

<腹水のポイント>

  • 腹水は腹腔に水が溜まった状態
  • 原因は腹膜播種、肝臓の障害、低アルブミン血症など
  • 治療は腹水の除去とがんそのものの治療の両方が必要
  • 卵巣がんやリンパ腫では治療で改善する例が多い
  • 患者さんごとに治療効果や予後は大きく異なる

腹水は苦しい症状ですが、適切な治療とサポートによって、
患者さんの生活の質を大きく改善することができます。