野菜をしっかり摂ることが健康に良いという話は、今では多くの方に知られています。
そして近年では、がんの予防や治療の補助として「野菜の力」に注目が集まっています。
実際、国内外の研究でも、野菜を多く食べる人は、そうでない人と比べて
特定のがんの発症リスクが低下する傾向があることが報告されています。
また、がんの診断を受けたあとに食物繊維を含む野菜を積極的に摂取した患者さんの方が、
生存期間が比較的長いというデータも知られています。
しかし、その一方で
「どのような調理法が良いのか」
という点は、まだ確立された答えがありません。特に最近は書店やインターネットで
「野菜スープががんに良い」
という本が人気を集め、多くの人が興味を抱くようになりました。
実際に、がん関連の書籍ランキングを見ると、いくつもの
“野菜スープ本”が上位に入っているほどです。
では、本当に野菜スープには「がんを抑える効果」があるのでしょうか。
ここでは、研究の内容や現時点での科学的知見を丁寧に
紹介しながら、この疑問をひも解いていきます。

野菜スープが注目されるきっかけのひとつに、海外で報告された動物実験があります。
がん治療に補完的なアプローチを取り入れたことで知られる医師が、
自身の著書の中で紹介している研究です。
その実験では、免疫機能が低いマウスに人間の肺がん細胞を移植し、
片方のグループには野菜スープを与え、もう一方には与えないという比較が行われました。
スープには芽キャベツ、ブロッコリー、にんにく、青ねぎ、
ターメリック、黒こしょう、クランベリー、グレープフルーツ、
緑茶など、多彩な食材が用いられていたとのことです。
結果として、スープを飲まなかったマウスでは、移植後まもなく腫瘍が大きくなっていきました。
一方で、野菜スープを与えられたマウスは腫瘍が確認されるまでの期間が長く、
腫瘍の増大もゆるやかであったという報告があります。
この結果だけを見ると
「野菜スープはがんに効くのでは?」
と思ってしまいますが、あくまでこれはマウスでの実験であり、
しかも特殊な条件で行われたもの。人間にもそのまま当てはまるとは限りません。
動物実験で希望の持てるデータがあるのなら、人間でも
効果を確かめるための臨床試験が行われているはずです。
そこで、世界中の医学論文が検索できる「PubMed」を使い、
野菜スープとがんに関連する論文を調べたところ、
実は“ほとんど研究が存在しない”ことが分かりました。
特に、
といった結果を示す研究は、現時点では確認されていません。
つまり、
「野菜スープが人のがん治療に直接効く」
という明確な証拠は、今のところ存在しない
というのが、科学的に言える結論です。

ただし、野菜スープに関する研究がまったくないわけではありません。
数少ない臨床研究として、前立腺がんのリスクが高い男性を対象に、
ブロッコリーのスープを飲んでもらった試験があります。
参加者を3つのグループに分け、
この3種類を1年間飲んでもらい、前立腺の組織に現れる遺伝子の変化を調べました。
結果として、
という興味深いデータが出ています。
ただし、参加者の人数が少なく、実際に
「がんの進行が止まった」
と言えるほどの強い証拠には至りませんでした。

ここまでの研究から言えることをまとめると、
✔ 野菜スープが人のがんを縮小させるという確実な証拠はない
✔ がん患者の生存期間を延ばすと示した研究もない
✔ ただし栄養学的には、野菜はがん患者にも非常に良い食品である
✔ スープにすると無理なく多くの野菜を摂れる点でメリットは大きい
ということになります。
つまり、
「野菜スープ=がんに効く」
というのは言い過ぎだが、
健康のための食習慣としては大いにおすすめできる
というのが、現段階での妥当な評価と言えるでしょう。
野菜の栄養素は、がんの予防や体の回復に役立つとされる成分が多く含まれています。
スープにすることで量が摂りやすく、さらに消化にも優しいため、治療中で
体力の落ちている患者さんにも取り入れやすい食べ方です。
もちろん、食事だけでがんを治すことはできませんが、医学的治療をしっかり受けながら、
日々の食生活に野菜スープを取り入れることは、身体づくりのサポートとして
十分に価値があると言えるでしょう。