がんの診断を受けた瞬間、多くの人は手術、抗がん剤、放射線治療といった、いわゆる「がんそのものを治す治療」に意識が向きます。もちろん、これらの治療は欠かせないものです。しかし、もう一つ、診断直後から積極的に取り入れていただきたい重要な医療があります。それが 緩和ケア です。
「緩和ケア」と聞くと、多くの人が「末期がんの人が受けるもの」「治療ができなくなってから使うもの」といったイメージを持っているかもしれません。かつては医療現場でもそのように扱われていた時代がありました。しかし現在では、緩和ケアはがん治療の初期から行うべき医療であり、患者さんの生活の質を高めるだけでなく、生存期間にも良い影響を与えることがわかっています。

緩和ケアの目的は、痛みだけを和らげることではありません。
がんによって起こる多様な症状に寄り添い、身体と心の負担を総合的に軽くする医療です。
こうした“がんと共に生きる上での苦痛”を軽減し、患者さんが自分らしく過ごす時間を支えること。それが緩和ケアの真の役割です。
緩和ケアの専門医や看護師、薬剤師、心理士、栄養士など多職種がチームとなり、患者さんの状態に応じたサポートを提供します。つまり、がん治療の途中で「つらくなってきたら相談するもの」ではなく、治療と同時進行で行うのが本来の姿なのです。
緩和ケアは生活の質を高めるだけでなく、生存率にも良い影響を与える可能性があることが、近年の研究で示されています。
2019年、JAMA Oncology に掲載されたアメリカの大規模研究があります。
対象はステージⅢB・Ⅳの進行肺がん患者 23,154人。
緩和ケアを受けたかどうか、そして「いつ」受け始めたかによって、生存率を比較したものです。
【研究で分かったこと】
この結果から、診断直後すぐ(0〜30日以内)に緩和ケアが導入されていたのは、もともと病状が非常に重く、入院中に緩和ケアが必要になったケースが多いと考えられています。
● 結論
診断後1か月以降から1年以内に緩和ケアを導入することで、進行がん患者の生存期間が大きく延びる可能性がある。
これはがん治療における非常に大きな発見です。
アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)は、ガイドラインで
進行がん患者には診断から2か月以内に、早期緩和ケアを導入すべき
と推奨しています。
緩和ケアは、治療をあきらめるための医療ではなく、がんと向き合う過程を最後まで支える医療として位置づけられています。

残念ながら、日本では
といった人員が不足しており、必要なときに十分な緩和ケアが受けられない現状があります。
そのため、多くの病院では主治医が痛み止めを処方したり、簡易的な対処を行っているにとどまり、専門的な緩和ケアを受けられていない患者さんが多いと考えられます。
また、医療者側も「治療開始の段階で緩和ケアの説明をする」ことに慣れておらず、患者さんが自ら希望しない限り、緩和ケアの話題が出ないこともあります。
もし受診している病院に、
がいる場合は、ぜひ主治医に相談してみてください。
緩和ケアは、
「治療をあきらめる合図」ではありません。
むしろ、治療を続けながら、心と体を良い状態に保つための、積極的な医療です。早期に導入するほど、生活の質が上がり、治療を乗り切る力にもつながります。
がん治療は、
腫瘍を小さくする治療(手術・抗がん剤・放射線) と
患者の生活と心を支える緩和ケア
この2つが両輪です。
どちらが欠けても、患者さんの人生を支える治療にはなりません。
日本でも、診断直後から緩和ケアを受けることが当たり前となり、患者さんがより安心して治療と生活を送れる体制が整っていくことを願ってやみません。

がん治療は一人で背負うものではありません。
緩和ケアは、患者さんの人生に寄り添い、苦痛を軽くしながら治療とともに歩むための大切な医療です。