近年、がん医療とCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の研究が進む中で、両者にはいくつかの共通点が存在することが明らかになってきました。「運動習慣のある人は、がんやCOVID-19で重症化や死亡のリスクが低くなる」という知見があるのですが、今回はこれに加えて、がんとCOVID-19双方において“貧血”が予後にどのような影響を与えるのかについて詳しく取り上げます。

貧血は一般的に、血液中のヘモグロビン値によって診断されます。正常値の目安は、男性で13〜16 g/dL、女性で12〜14 g/dLとされています。したがって、男性で13 g/dL以下、女性で12 g/dL以下の場合には、貧血が疑われることになります。
ヘモグロビンは血液中で酸素を運ぶ重要な役割を担っていますが、その値は栄養状態の指標としても用いられることがあります。つまり、貧血があるということは、体内の栄養状態が低下している可能性を反映していることが多いのです。とくに、がん患者では食欲低下や治療による副作用などが影響し、貧血を伴うケースが少なくありません。そして、この貧血が生存期間に悪影響を及ぼすことが、複数の研究で明らかになっています。
2021年8月に医学雑誌『Supportive Care in Cancer』に報告された研究では、2715名のがん患者を対象に、ヘモグロビン値が正常か低下しているかによって2つのグループに分け、生存期間を比較しました。
その結果、貧血のない患者に比べ、貧血のある患者では生存期間が有意に短いことが示されました。さらに、年齢や病期、併存疾患など、ほかの予後因子を調整した“多変量解析”でも同様の傾向が見られ、貧血があると死亡リスクが2.4倍にまで上昇するという結果が示されています。
このことから、がん医療において貧血は予後を悪化させる重要な因子の一つであると位置づけられています。

続いて、COVID-19における貧血の影響に関する研究をご紹介します。2021年2月に『BMC Infectious Diseases』に報告されたイランでの研究では、COVID-19で入院した1274名を対象に、入院時のヘモグロビン値に基づいて貧血の有無を判断し、その後の経過を比較しました。
貧血の基準は前述したとおり、男性13 g/dL以下、女性12 g/dL以下とされています。この研究において、貧血のある患者では以下のアウトカムが有意に高くなることが明らかになりました。
ただし、貧血は高齢者や基礎疾患の多い患者に多く見られるため、単純に「貧血そのものが予後を悪化させる」と結論づけることはできません。そこで研究チームは、年齢・低酸素血症・糖尿病・呼吸器疾患・喫煙歴など、多くの要因を調整した多変量解析を行いました。
その結果、貧血のある患者では、
という明確な数字が示されました。つまり、貧血の存在がCOVID-19の重症化や死亡に独立して影響を与えている可能性が高いということです。

貧血の原因はさまざまですが、もっとも一般的なのは鉄不足による鉄欠乏性貧血です。ほかにも、慢性的な出血、腎臓病、骨髄の造血機能低下(再生不良性貧血)、ビタミンB12や葉酸の不足など、多岐にわたる要因が存在します。
予防・改善の第一歩としては、食事から鉄分を適切に補給することが重要です。鉄分を多く含む食品には以下のようなものがあります。
必要に応じてサプリメントや鉄剤を利用することも可能ですが、自己判断での長期使用は避け、改善しない場合には医療機関を受診することが推奨されます。
今回ご紹介した研究から、がんとCOVID-19という全く異なる疾患において、貧血が予後悪化の共通した因子となることが示されています。
もちろん、貧血を改善したからといってCOVID-19の重症化を完全に防げるわけではありません。しかし、貧血の存在が予後に負の影響を及ぼす可能性は高く、健康管理の上でも軽視できない要素であることは明らかです。
日常生活の中で栄養バランスを整え、必要に応じて医療機関のサポートを受けながら、貧血を予防・改善していくことが、疾病リスクの軽減にもつながると考えられます。