転移性トリプルネガティブ乳がんをあきらめない!統合医療で完全寛解の1例

乳がんは日本でも患者数が多く、多くの方にとって身近な病気です。なかでも「トリプルネガティブ乳がん(TNBC)」は治療の選択肢が限られ、進行も早いタイプとして知られており、患者さんやご家族にとって大きな不安の種となります。

しかし、そんなトリプルネガティブ乳がんであっても、諦める必要はありません。
今回ご紹介するのは、全身に転移したステージ4のトリプルネガティブ乳がんに対し、標準治療と補完代替医療を組み合わせる「統合医療」によって、完全寛解(CR)に至った症例です。2017年に医学誌 Cureus に掲載された論文をもとにしています。

この症例が示すものは「特殊な方法なら治る」ということではありません。しかし、患者さんの希望を尊重しながら複数の治療法を組み合わせる統合医療の可能性、そして医療が進歩し続けているという事実を感じていただけるのではないでしょうか。

トリプルネガティブ乳がんとは?

トリプルネガティブ乳がんとは?

まず、この症例を理解するために「トリプルネガティブ乳がん」について簡単に整理しておきましょう。

乳がんは、細胞の性質によりいくつかのタイプに分かれます。その分類に使われるのが以下の3つの受容体です。

  • エストロゲン受容体(ER)
  • プロゲステロン受容体(PR)
  • HER2(ハーツー)

一般的な乳がん治療では、これらの受容体の有無によってホルモン療法や分子標的薬といった治療が効果を発揮します。しかし、トリプルネガティブ乳がんはこの3つすべてが陰性(=ネガティブ)であるため、使用できる薬剤が限られてしまいます。

治療の中心は抗がん剤ですが、進行が早い場合も多く、再発リスクも高めです。
そのため患者さんや医療者にとって、治療計画には慎重な検討が求められます。

全身に転移した29歳女性 ― 重い現実から始まった治療

全身に転移した29歳女性 ― 重い現実から始まった治療

症例の主人公は、当時29歳という若さの女性。左胸にしこりを感じたことをきっかけに病院を受診しました。

検査結果は、衝撃的なものでした。

  • 左乳房に最大75mmもの大きな腫瘍
  • 脇の下の複数のリンパ節が腫れ、転移の疑い
  • 生検で浸潤性乳管がん、さらにトリプルネガティブと判明
  • PET検査では
    • 左乳房と腋窩リンパ節
    • 肝臓に多数の腫瘤
    • 左上腹部にも集積
      と、全身に転移が認められました。

診断は ステージ4の転移性トリプルネガティブ乳がん
非常に厳しい病状です。

選ばれたのは“統合医療”によるアプローチ

ここで患者と医療チームが選んだのが、標準治療(抗がん剤)+補完的アプローチを組み合わせた統合医療の戦略でした。

① 抗がん剤治療(標準治療)

使用された薬は3種類:

  • ドセタキセル
  • ドキソルビシン
  • シクロフォスファミド

いずれも乳がん治療で広く使われる薬剤です。

② 代謝状態を利用した抗がん剤治療(MSCT)

特徴的だったのが、この治療が 「MSCT(Metabolic Supported Chemotherapy)」 という方法で行われた点です。

これは、

  • 抗がん剤投与前に12時間の絶食
  • インスリン注射で血糖値を 50~60mg/dL に下げる

ことで、がん細胞がより抗がん剤の影響を受けやすい状態を作り出すという考え方に基づいています。

がん細胞は正常細胞よりも糖に依存する度合いが高いため、低血糖状態にするとダメージが強まりやすい、という理論です。

(※効果に関しては研究途上であり、すべての患者に有効とは限りません)

③ ケトン食(ケトジェニック・ダイエット)

患者は治療中、糖質を極端に制限する食事法を取り入れました。

摂取してよいもの

  • 葉物野菜
  • 高脂肪乳製品
  • 肉類
  • ナッツ

禁止食品

  • パン、パスタ、米、ポテト
  • 砂糖、蜂蜜
  • フルーツ

尿中ケトン体が陽性になるよう、継続的に管理が行われました。

④ 全身温熱療法(ハイパーサーミア)

高い温度で体を温め、がん細胞にストレスを与える治療法。
抗がん剤の効果を高める可能性もあり、一部医療機関で補助的に用いられています。

⑤ 高圧酸素療法

通常より高い気圧下で酸素を吸入することで、体内の酸素濃度を上げる治療。
代謝や血流の改善が期待され、補助的療法として使用されました。

治療開始から4か月 ― 驚くべきPET検査の結果

治療開始から4か月 ― 驚くべきPET検査の結果

これらの治療を 4か月間 継続したあと、再度PET検査を行いました。

結果は、医療チームも驚くものでした。

  • 乳房の原発巣の集積が消失
  • 肝臓の多数の腫瘤も消失
  • 腹腔内の病変もすべて陰性

初期には全身に広がっていたがんが、画像上は見えなくなっていたのです。

6か月後、手術を実施 → 結果は“完全寛解”

PET検査で劇的な改善が見られた後、同じ治療を2か月継続し、計6か月の治療終了後に
乳房切除術+リンパ節郭清 が行われました。

病理組織(顕微鏡)検査の結果――

がん細胞は1つも残っていない。

医学的に「完全寛解(CR)」と診断される状態でした。

ステージ4・多臓器転移という厳しい状況からの完全寛解は稀であり、この症例が医学誌で報告された理由もそこにあります。

統合医療が示す可能性と注意点

この症例は非常に印象的ですが、同時にいくつか大切なポイントがあります。

● この治療法がすべての患者に効果的とは限らない

MSCT、ケトン食、温熱療法、高圧酸素療法は研究途上のものも多く、標準治療として確立しているわけではありません。

● 標準治療(抗がん剤)が治療の中心

あくまでも基盤は抗がん剤治療であり、補完的療法はその“サポート”として併用されています。

● 医師の管理のもとで行われている

代謝状態の調整(低血糖)は危険も伴うため、専門家による厳密な管理が不可欠です。

「諦めない治療」がこれからの時代のキーワードに

今回紹介した症例は、患者さん自身の強い意志と、標準治療と補完治療を柔軟に組み合わせた医療チームの取り組みによって得られたものです。

もちろん、どの治療方法が正しいかは、患者さんの病状や価値観によって異なります。
しかし、

  • 可能性を閉ざさずに治療選択肢を考えること
  • 標準治療を中心に、補完療法の工夫を重ねることが効果を生む場合もあること

この症例は、その2つを強く示唆しています。

医学は日々進歩しています。
「ステージ4だから」「トリプルネガティブだから」と、希望を失う必要はありません。

どんな状況でも自分にできる選択を探し、信頼できる医療者とともに歩むことで、未来は変えられるかもしれません。