抗がん剤治療中の食事制限:生もの(刺し身)はダメか?

抗がん剤治療中の食事制限:生もの(刺し身)はダメか?

抗がん剤治療中の「生活制限」は本当に必要なのか

抗がん剤治療中の「生活制限」は本当に必要なのか

抗がん剤治療を受ける患者にとって、日常生活の制限は大きな負担となります。刺身などの生ものを控えること、人ごみへの外出を避けること、さらにはペットとの接触を制限すること。これらは「感染症を予防するため」という理由で、病院で一般的に指導されてきました。

治療中は免疫力が低下し、特に好中球という細菌と戦う白血球が減少する患者も多く、感染症にかかりやすくなるのは確かです。重症化すれば敗血症を引き起こし、生命の危険につながることもあります。しかし、果たして生活への厳しい制限は、本当に感染症の予防に役立っているのでしょうか。

小児白血病患者を対象とした大規模研究

この疑問に答えるため、急性骨髄性白血病の小児患者339人を対象に、抗がん剤治療中の生活制限が感染症に与える影響を評価した臨床試験があります。
研究では、次の3つのカテゴリーについて制限の程度をスコア化しました。

1. 食事の制限
生のシーフード・肉、非殺菌乳製品、生野菜やサラダ、ナッツ、テイクアウト食品、水道水など

2. 社会生活での接触制限
公的な場所への外出、友人宅の訪問、学校・幼稚園への通学

3. ペットに関する制限
犬・猫・鳥・小動物・カメなどの飼育

そして、これらの制限と、不明熱、菌血症、肺炎、胃腸炎といった感染症関連の合併症の発生率との関連を調べています。

制限は感染症リスクを下げなかった

結果は、多くの人にとって意外なものでした。

  • 不明熱:277人(82%)
  • 菌血症:174人(51%)
  • 肺炎:45人(13%)
  • 胃腸炎:77人(23%)

これらの発生率と、食事・接触・ペットの制限スコアのあいだには「有意な関連はない」と示されたのです。
つまり、生活上の厳しい制限を行っても、感染症のリスクは低下しないという結果でした。

この研究は小児を対象としていますが、感染リスクの高い白血病の治療下でも効果が見られなかったことから、一般的ながん治療を受ける成人にも示唆を与えると考えられます。

食事制限に関する総合的解析でも同じ結論

さらに、抗がん剤治療中の食事制限の有効性を複数の研究から検証した総合解析でも、「食事制限によって感染症などの副作用が減るという証拠はない」と報告されています。

生ものを避ける、人ごみを控える、ペットを遠ざける——。これらの制限を行っても、感染リスクを減らす確かなエビデンスはない、というのが現在得られている科学的結論です。

それでも大切な「基本的な衛生習慣」

ただし、誤解してはならない点があります。
生ものは健康な人でも食中毒を起こすことがあります。抗がん剤治療中であれば、より注意が必要です。

  • 新鮮な食材か、信頼できる店かを確認すること
  • 野菜や果物は十分に洗うこと
  • 調理前・食事前の丁寧な手洗い
  • 少しでも不安がある食品は加熱すること

これらの基本的な衛生管理は、誰にとっても重要です。

最後に

■ 最後に

抗がん剤治療中でも、科学的根拠のない過度な制限に苦しむ必要はありません。
「刺身が好きだけれど我慢している」「ペットに触れられないのがつらい」——そのような生活の制限は、患者の心身にとって大きな負担となります。

最新の研究からは、過度な制限が感染症を防ぐという根拠は見いだされていません。
ただし、個々の病状や治療内容によって必要な注意事項は異なるため、最終的な判断は主治医と相談することが大切です。

患者が、治療中であってもできる限り普段の生活に近い形で過ごせるよう——科学的根拠に基づいたより良い指導が広がることが望まれます。