「病は気から」という言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
昔から、人の心と体は密接につながっていると言われてきました。風邪をひいたときも、落ち込んでいるときはなかなか治らなかったり、逆に前向きな気持ちでいると不思議と元気が出てきたりします。
そして実は、がんのような大きな病気においても、「心の持ち方」が回復に影響を与える可能性があるのです。

最初にお伝えしたいのは、「気持ちだけでがんが治る」というような極端な話ではないということです。
現代医療の力は確かであり、治療や投薬、手術といった科学的なアプローチは不可欠です。
しかし、その治療の効果を最大限に引き出すためには、患者自身の「心の在り方」が大切だということが、多くの研究から明らかになっています。
2018年、アメリカのがん専門誌『Cancer』に興味深い論文が発表されました。
この研究では、診断後5年未満のがんサバイバー2,457人を対象に、病気に対する「とらえ方」と「生存期間」の関係が調査されました。
がんの種類は、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、子宮体がん、卵巣がん、非ホジキンリンパ腫など、多岐にわたります。
研究チームは、患者一人ひとりが自分の病気をどう受け止めているかをアンケートで調べ、その回答をもとに「楽天的」「現実的」「悲観的」という3つのグループに分類しました。
そして、それぞれのグループの「生活の質」や「生存期間」を比較したのです。
結果は驚くべきものでした。
参加者のうち、楽天的な人が582人、現実的な人が1,230人、悲観的な人が645人でした。
最も多かったのは「現実的」なグループでしたが、興味深いのはその後の生存率の違いです。
楽天的な人は、たとえ「自分はきっと治る」といった非現実的な希望を抱いていたとしても、生活の質が高く、現実的な人に比べて死亡リスクが約30%も低かったのです。
一方で、悲観的な人は最も生存率が低く、現実的な人よりも死亡リスクが50%も高いという結果が出ました。
研究者たちはこの結果を、「病気を楽天的に受け止めることが、生存率の向上につながる可能性がある」と結論づけています。
つまり、同じ病気であっても、「どう考えるか」が、人生の質や長さに大きく関わっているのです。
「気持ちで病気が変わるなんて、本当かな?」と思う方もいるかもしれません。
しかし実際に、ストレスや不安が続くと体内の免疫機能が低下し、逆に前向きな感情があると免疫細胞が活発になることが分かっています。
笑うことで「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」が活性化するという研究も有名です。
つまり、心の状態が体の防御反応に影響を与えているのです。
もちろん、誰もがもともと楽天家というわけではありません。
病気になれば、不安になるのは当たり前のことです。
大切なのは、「不安をゼロにする」ことではなく、「不安を抱えながらも前向きに生きる」姿勢です。
もし心配や恐れが頭をよぎったときは、心の中で「大丈夫、なんとかなる」と小さく唱えてみましょう。
この一言が、心のバランスを保ち、過度な不安を鎮めてくれます。
すぐに性格を変えることは難しいですが、少しずつ「悪い方向」ではなく「良い方向」に意識を向けるだけでも、心は軽くなります。
悲観的な考えは、エネルギーを奪い、気力を失わせます。
逆に、「なんとかなる」「きっと良くなる」と思えるだけで、体の中に自然と前向きな力が湧いてくるものです。
これは単なる精神論ではなく、脳やホルモン、免疫機能といった生理的な働きにも裏づけがあります。
もし落ち込んだときは、「無理に明るく振る舞う」必要はありません。
ただ、「自分はこの瞬間も頑張っている」と認めてあげるだけでいいのです。
それが次第に、「希望」という小さな光を心の中に灯してくれます。

がんと向き合う日々は、決して楽なものではありません。
けれども、「くよくよせず、楽天的に考える」ことが、確かに生きる力を支えてくれます。
医学的治療に加えて、前向きなマインドセットを持つこと。
それが、がんを乗り越える人たちに共通する、大切な「生きる知恵」なのかもしれません。
不安があっても大丈夫。涙が出る日があっても大丈夫。
それでも最後に、「なんとかなる」と思える自分でいられたなら、きっと未来は少しずつ明るくなっていきます。
楽天的に生きること――それは、希望を自分の中に育てる力なのです。