「手術も抗がん剤も乗り越えた。検査でも異常なし。もう大丈夫だと思っていたのに…なぜ今になって再発したのですか?」
これは、がん医療の現場で非常によく聞かれる質問です。
がん治療は年々進歩しており、早期発見・早期治療によって、多くの患者さんが長期生存を得られるようになってきました。それでも、“完全に治った”と思われた後での再発は今も起こり得ます。
特に、手術後数年が経過してからの再発は患者さんにとって大きなショックであり、「なぜこんなことが?」と深い不安に陥らせます。
今回の記事では印象的な症例を紹介しながら、
について、できるだけわかりやすく解説していきます。

一般的に、がんの再発リスクは治療後から年々下がっていきます。
そのため、5年再発がなければ“卒業”と言われることもあるほどです。
しかし現実には、
5年経過してからの再発、なかには10年、20年のちの再発も決して珍しくありません。
“時間が経てば安心”というのは間違いではありませんが、絶対でもないのです。
その背景には、「がん休眠」という興味深い現象が関わっています。
● 60代後半の女性:Aさん
Aさんは特に自覚症状がなかったのですが、定期的に受けていた腹部超音波検査でたまたま すい臓に小さな影 が見つかりました。
詳しく検査すると、
すい臓がんは早期で見つかることが非常に珍しいため、これは“幸運な発見”と言える状況でした。
手術は無事成功。
肉眼で見える範囲のがんはすべて取り切れました。
術後は再発予防のために抗がん剤治療も行い、経過は良好。
手術後4年間、再発はまったくなし。
すい臓がんの場合、5年再発がなければ「完治」と判断できるケースが多いため、
「あと1年で完全に治ったことになる」という希望を抱いていました。

そんなある日の外来で、Aさんがこう言いました。
「最近、肩が痛くて…。湿布をしても治らないんです。」
最初は一般的な肩こりや筋肉痛を疑いましたが、診察すると違和感がありました。
念のためPET検査を行うと――
肩の僧帽筋にがん転移が見つかったのです。
すい臓がんが筋肉に転移するのは極めてまれ。
さらに調べると、肺や胸のリンパ節にも転移が広がっていました。
手術から4年以上経ってからの、突然の全身転移。
その後、負担の少ない抗がん剤治療へ移行しましたが、がんの勢いは早く、治療はうまくいきませんでした。
残念ながらAさんを救うことはできませんでした。
Aさんのような遅い再発を説明するとき、医学的に重要な概念があります。
それが 「がん休眠」 です。
● がん休眠とは?
がん細胞は、手術や抗がん剤で大部分を取り除いたあとも、
わずかに体の中に残ることがあります。
しかし残ったがん細胞がすぐに増えるとは限りません。
むしろ、
ことがあるのです。
これが「休眠」状態です。
● 休眠している間は何も起こらない
休眠が続く限り、
つまり「がんがいないのと同じ状態」が続きます。
● ではなぜ突然目覚めるのか?
これについてはまだ完全には解明されていませんが、候補として考えられているのは、
などです。
体の環境が変化したことで、
休眠していたがん細胞が再び増殖を開始する と考えられています。
多くの患者さんは、再発がわかると自分を責めます。
「食事が悪かったのでは?」
「もっと頑張ればよかった?」
「治療方法を間違えたのか?」
しかし、はっきり言えるのは、
● 再発したからといって、治療や本人のせいではない
● 医療の限界が原因であることがほとんど
● がんには「休眠する」という性質があるから起こる現象
ということです。
Aさんの場合も、当時可能なベストの治療を行っていました。
それでも、顕微鏡でも見えないほどの少数の細胞が体内に残っていた可能性があります。
近年、「遅い再発」にはいくつかの特徴があることがわかってきています。
① 5年以上経って再発したがんは、比較的進み方がゆるやかな場合もある
(もちろん例外もあります)
② 休眠していた細胞が目覚めるまでの時間=がんが弱い状態だった可能性もある
③ 治療の進歩で、再発後も長期生存を目指せるケースが増えている
つまり、
「遅い再発=もうダメ」では決してない
ということです。
早期発見・早期治療が功を奏しているケースも少なくありません。
なぜ筋肉に転移?―“珍しい場所”に転移する理由
Aさんの場合、肩の僧帽筋への転移は非常に珍しいケースでした。
筋肉は、
という特徴があり、実は がんが定着しにくい場所 と考えられています。
それにもかかわらず筋肉に転移が起きたということは、
など、複合的な要因が考えられます。
① 定期検診をしっかり続ける
症状がなくても検査で見つかることがあります。
② 気になる症状を放置しない
Aさんのように、「肩の痛み」がきっかけで発見されることも。
など、「いつもと違う」サインは早めに相談することが大切です。
③ 再発=終わりではない
治療法は年々進歩しています。
など、新たな選択肢が増えています。

Aさんのケースは残念な経過でしたが、
この症例から学べることは多くあります。
そして何より、
「時間が経ってからの再発」について正しく理解しておくことが、患者さんの不安を軽減することにつながる
という点です。
がん治療は日々進歩し、再発後の治療の選択肢も確実に増えています。
重要なのは、一人で抱え込まず、主治医と一緒に最適な治療を考えていくことです。