今回は、がん患者さんに比較的多くみられる合併症のひとつである「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」について、できるだけわかりやすくお話しします。
少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、内容としてはとても大切で、命に関わることもあるため、ぜひ知っておいていただきたい話です。

私たちの足には、血液を心臓へ戻すための太い血管が奥の方にあります。そこに血のかたまりができて、血液の流れが悪くなる状態を「深部静脈血栓症」と呼びます。
場所としては、
・ふくらはぎ
・太もも
・骨盤のあたり
などにできることが多く、目で見ただけでは気づきにくいことが特徴です。
血のかたまりができると、足が腫れたり痛んだりすることがありますが、まったく症状が出ない場合もあります。
この病気が怖いと言われる最大の理由は、できた血のかたまりが血流に押されてはがれ、肺まで運ばれてしまうことがあるからです。
肺の血管が詰まってしまうと、
・急に息が苦しくなる
・胸に強い痛みが出る
・意識を失う
といった重い症状が起こり、場合によっては命にかかわる危険な状態になります。
この状態を「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」と呼びますが、深部静脈血栓症が原因で突然起こることがあります。
そのため、早めに気づいて対策を行うことがとても重要です。
深部静脈血栓症は、次のような状況で起こりやすくなることが知られています。
・加齢
・肥満
・長時間動かずにいる
・飛行機やバスでの長距離移動
・デスクワーク
・入院中の安静や寝たきり状態
・水分不足
いわゆる「エコノミークラス症候群」と呼ばれる状態も、この病気の一種です。
これらに加えて、とても大きな原因となるのが「がん」です。

研究によると、がんになると血液が固まりやすくなる変化が体の中で起こりやすくなります。
そのため、がん患者さんが深部静脈血栓症を発症する可能性は、
一般の人に比べて約4~7倍
と言われています。
さらに、がんの種類によってそのリスクは大きく異なり、
・膵臓がん:約10倍
・肝臓がん:約7倍
・卵巣がん:約6倍
・肺がん:約5倍
・子宮頸がん:約5倍
・食道がん:約3倍
といった報告があります。
日本で行われた大規模調査でも、
がん治療を始める時点で約6%の患者さんがすでに血のかたまりを持っていた
という結果が出ています。
特に多かったのは、
・膵臓がん:8.5%
・胃がん:6.9%
でした。
一方で乳がんは2.0%と比較的少ない傾向がみられました。
調査では、がんが進んだ状態(ステージ4)になるほど血栓ができやすくなり、
ステージ4では約11%
に深部静脈血栓症がみられたと報告されています。
また、抗がん剤治療中もリスクが高くなることがわかっています。
そのため、
・高齢
・肥満がある
・膵臓がんなど消化器系のがん
・がんの進行が進んでいる
・抗がん剤治療中
といった条件に当てはまる場合は特に注意が必要です。
深部静脈血栓症は、症状がまったく出ないことも多いのですが、次のような変化がある場合はサインの可能性があります。
・片方のふくらはぎが腫れて太くなっている
・足にむくみがある
・押すと痛む
・熱っぽく感じる
・皮ふが赤くなる
左右の足の太さが明らかに違うことで気づく方もいます。
少しでも気になる場合は、自己判断せず主治医に相談してください。早く対応できれば、命にかかわる状態を防ぐことができます。
病院では、
・血液検査(血液が固まりやすい状態かを調べる)
・足の血管を超音波で見る検査
などで確認します。
血のかたまりが見つかった場合は、それ以上大きくならないように治療を行い、肺塞栓症を防ぐことができます。

深部静脈血栓症は、普段の生活である程度予防することができます。
とくに次のポイントが重要です。
●長時間同じ姿勢でいない
・1時間に1回は足を動かす
・足首を回す
・軽く足踏みをする
●こまめに水分をとる
脱水になると血液がドロドロして固まりやすくなります。
特に夏場は意識して水分をとりましょう。
●足を締め付けすぎない
きつい衣類や靴下は血流を妨げることがあります。
少しの工夫で予防につながりますので、ぜひ意識してみてください。
深部静脈血栓症は、
・がん患者さんに多い
・症状が出にくいことがある
・放置すると命にかかわる肺塞栓症を引き起こすことがある
という非常に重要な合併症です。
しかし、
・早期に気づくこと
・日常の予防
・適切な治療
によって危険な状態を避けることができます。
「いつもと違う足の腫れや痛み」を感じたときは、遠慮せず主治医に相談してください。
がん治療を乗り越えるためには、体全体の状態をしっかり整えることが大切です。
今回のお話が、ご自身やご家族の健康を守るための参考になれば幸いです。