新たに注目される「食物繊維」を中心としたプレハビリテーションの食事メニュー
がん治療の中心となる三大療法といえば、手術・抗がん剤・放射線治療です。この中でも手術は、患者の命を救い根治を目指すために欠かせない治療ですが、同時に身体への負担も大きい治療方法です。手術に伴って起こる望ましくない事象を「合併症」と呼び、術後の回復を大きく左右します。したがって、手術成功のためには術後だけではなく、術前から身体を整えることが重要となります。
この考え方に基づき、近年注目されているのが「プレハビリテーション」です。これは、手術前から計画的に身体と心を整え、術後の回復力を高める取り組みを指し、運動・栄養・心理的サポートの3つを柱としています。
従来、術前の栄養ケアではたんぱく質の補給やビタミン・ミネラルの強化が重視されてきました。しかし、腸内環境を整える上で重要とされる食物繊維については、「大腸がんの発生や再発リスクを下げる」研究データはあるものの、術前のプレハビリテーションの主役として扱われることはほとんどありませんでした。
ところが近年、「手術前の食物繊維摂取が術後の合併症を減らす可能性がある」という注目すべき報告が行われました。本記事では、その研究内容とその意義について詳しく紹介します。

2023年6月16日、外科系医学誌として著名な JAMA Surgery に、大腸がん患者を対象とした興味深い研究結果が掲載されました。
研究タイトル:
「大腸がん術前の習慣的な食物繊維摂取と手術後の合併症との関連」
この研究は、オランダ国内の11病院で手術を受けた1,399人の大腸がん患者を対象とした前向き研究です。
術前1か月の食事内容を詳しく調査し、
を細かく分析しました。
その上で、術後にどの程度合併症が発生したかを比較し、食物繊維摂取量との関係を検討したという、非常に実践的で意義深い研究です。
研究結果は非常に明確で、食物繊維摂取量が多い患者ほど術後合併症が少ないことが示されました。
つまり、食物繊維を最も多く摂っていた人々では、合併症リスクが約3割も低下していたのです。
手術方法の工夫で合併症を3割も減らすことは至難の業であり、食事によってこれほど大きな改善が得られた点は、医療現場に大きなインパクトを与える結果と言えます。
食物繊維は様々な食品に含まれますが、特に興味深いのは食品群別の解析です。
その結果、
最も合併症リスク低下と強く関連したのは「野菜から摂取した食物繊維」
であることが明らかになりました。
さらに男女別解析では、
と報告されており、生物学的背景やホルモン、腸内細菌の違いなどが関係している可能性が推測されています。

食物繊維が手術後の合併症を減らす理由は、完全には解明されていません。しかし、現在の医学的知見から以下のメカニズムが想定されています。
● ① 腸内細菌叢(腸内フローラ)の改善
食物繊維は「善玉菌のエサ」になり、腸内環境を整えます。
腸内細菌がバランスよく保たれることで、炎症を抑える物質が産生され、手術後の回復力が高まると考えられています。
● ② 免疫機能の向上
腸は免疫の重要な拠点であり、食物繊維の摂取が免疫細胞の働きを整え、感染症などのリスク低下につながる可能性があります。
● ③ 血糖値の安定化
食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑えるため、術後の代謝バランスを保ちやすく、合併症抑制に寄与する可能性があります。
今後さらなる研究が進めば、プレハビリテーションの食事指導の中に「食物繊維」が正式に組み込まれる日も遠くないでしょう。
現時点で大腸がん術前に推奨される食事としては、以下の2本柱が重要です。
● ① 良質なたんぱく質
(卵・魚・大豆製品・鶏肉など)
手術後の回復力を支え、筋力低下を防ぐために必須です。
● ② 野菜を中心とした食物繊維
特に以下の食品が有用です。
極端に量を増やす必要はありませんが、毎食の中で意識的に野菜を1品増やすことが良い第一歩になります。

今回紹介した研究から、
大腸がん手術前に、特に「野菜由来の食物繊維」を多く摂ることで合併症リスクが大きく低下する可能性
が示されました。
これは手術の質や技術とは異なるアプローチであり、患者自身が術前から取り組める有効な方法です。
もちろん、食物繊維だけでなく、たんぱく質を中心としたバランスの良い食事や適度な運動、心理的サポートも重要です。これらを組み合わせてこそ、プレハビリテーションは最大の効果を発揮します。
大腸がん手術を控えている方、あるいは術前の準備として何をすべきか知りたい方にとって、今回の研究は大きなヒントとなるでしょう。