抗がん剤治療(がん化学療法)にまつわる誤解5つ

抗がん剤治療(がん化学療法)にまつわる誤解5つ

抗がん剤治療にまつわる誤解を解き、正しい理解へ

抗がん剤治療にまつわる誤解を解き、正しい理解へ

がんと診断されたとき、多くの方が不安と恐怖のなかで治療を選択していかなければなりません。なかでも「抗がん剤治療」は、名前を耳にしたことはあっても、その実態を正しく理解できていないケースが少なくありません。副作用の強いイメージから「怖い治療」という印象ばかりが先行し、誤った理解のまま治療を拒否してしまう患者さんもおられます。また、過度の心配から生活の質が著しく低下したり、主治医との信頼関係に影響を及ぼすこともあります。

本来、抗がん剤治療は、がんの制圧や症状緩和に大きく寄与する可能性を秘めた、重要な治療選択肢の一つです。正しい知識を身につけ、納得したうえで治療に臨むことが、治療効果を最大限に引き出すためにも欠かせません。そこで本稿では、多くの患者さんに共通する誤解を取り上げ、その背景と真実を丁寧に解説していきます。

1.「抗がん剤ではがんは治らない」という誤解

よく耳にするのが、「抗がん剤は延命のためのもので、根治はできない」という声です。確かに、すべてのがんが抗がん剤だけで治るわけではありません。しかし、この表現だけが独り歩きしてしまうのは大きな誤解です。

まず血液のがん、たとえば白血病や悪性リンパ腫などでは、抗がん剤治療が著しく奏効し、完治が期待できるケースが数多くあります。これは、抗がん剤が血液中のがん細胞に直接作用しやすいという特性によります。

また、一般的に「固形がんは抗がん剤が効きにくい」と言われることは確かですが、固形がんでも腫瘍が完全に消失し、検査上がんが見つからない状態になることがあります。これを「完全寛解(CR)」と呼びます。たとえば、大腸がんが肝臓へ転移した患者さんでも、抗がん剤治療によって転移巣が画像上消えることがあり、その後に外科的切除を行った結果、顕微鏡検査でがん細胞が完全に消えていた例も報告されています。

がんの種類、病期、患者さんの体力など多くの因子が関わるため一概には言えませんが、抗がん剤が“治癒”に結びつくこともあるという点は、ぜひ知っておいていただきたい事実です。

2.「腫瘍が小さくならないと意味がない」という誤解

抗がん剤治療の成果を「がんがどれだけ小さくなったか」で判断しがちです。しかし治療の目的は「腫瘍の縮小」だけではありません。

抗がん剤によって腫瘍が縮小しなくても、増大が止まり、一定の大きさを保てている状態は「病勢コントロールができている」といえます。がんが増殖するスピードを抑えられれば、生命への危険が迫る状況を回避することができ、それだけで治療効果は十分意義のあるものになります。

さらに、抗がん剤は症状の緩和にも大きく関わります。たとえば膵臓がんでは、腫瘍が神経や周囲臓器を圧迫して激しい痛みを引き起こすことがありますが、抗がん剤治療によって痛みが軽減され、食事や睡眠の質が改善するケースが少なくありません。これは、腫瘍自体の大きさに明確な変化がなくても、炎症や周囲への圧迫が和らぐことで症状が軽くなるためです。

3.「一度始めたら抗がん剤はやめられない」という誤解

患者さんが不安に感じる点として、「抗がん剤治療を始めたら最後まで続けなければならない」という思い込みがあります。医師から「まずは3コース続けて様子を見ましょう」と説明を受けることがありますが、その言葉が「途中でやめてはいけない」と誤解されてしまうのです。

実際には、抗がん剤治療は患者さんの体調や生活環境を最優先して調整されるべきものです。副作用が強く、生活が著しく制限されるような場合には、たとえ1日しか治療していなくても、中断することができます。治療の最終的な決定権は患者さん自身にあります。

医師には治療のメリットだけでなく、負担やリスクについても説明する義務があります。治療を続けるか悩んだときは、遠慮せずに主治医へ「続けられそうにない」「別の方法を検討したい」と率直に相談することが大切です。治療は医師と患者さんの協力関係のもとで進めるものであり、一方的に我慢し続ける必要はありません。

4.「抗がん剤を受けたら必ず強い副作用が出る」という誤解

抗がん剤と聞くと、「吐き気」「脱毛」「倦怠感」といった副作用を連想される方が多いでしょう。しかし、すべての抗がん剤に強い副作用があるわけではありません。また、副作用の出方には大きな個人差があります。

たとえば、多くの抗がん剤で起こりうる「骨髄抑制」は、血液の成分を作る力が一時的に低下する状態ですが、自覚症状が全くないことも珍しくありません。検査で初めて異常に気づくことも多く、患者さん本人は日常生活を普段通り送れる場合もあります。

また、吐き気が想定される抗がん剤を使用する際は、治療前に「制吐剤(吐き気止め)」を投与することが標準的な医療として確立しています。そのため「抗がん剤=激しい吐き気」という時代は、すでに過ぎつつあります。

最近は副作用を軽減するサポート治療(支持療法)が大きく進歩し、多くの患者さんが治療を続けられるようになっています。恐怖心から治療を諦める前に、どのような副作用があり、どう対処できるのかを事前に知っておくことが大切です。

5.「抗がん剤治療中は安静にしたほうがよい」という誤解

治療中は体に負担がかかるため、できるだけ安静に過ごすべきだと思う方も多いでしょう。しかし、過度に安静を続けると、筋力の低下や体力の衰えが進み、かえって治療の継続が難しくなってしまうことがあります。

実際に、運動不足によって筋肉量が減少する「サルコペニア」は、抗がん剤治療の効果を弱めたり、治療の副作用を重くする要因になると報告されています。

一方で、適度な運動は抗がん剤治療の副作用軽減にも役立つことが知られています。特に乳がん患者を対象とした研究では、ウォーキングなどの軽い運動を取り入れた患者さんは、痛みや倦怠感などの副作用が軽減し、生活の質が向上したという結果が示されています。

もちろん、無理に激しい運動をする必要はありません。体調に応じて、散歩やストレッチといった軽い運動から始めるだけでも十分に効果が期待できます。

おわりに

おわりに

抗がん剤治療に対する誤解は、患者さんの不安を増幅させ、治療の選択肢を狭めてしまうことがあります。しかし、正しい情報を知ることで、抗がん剤は決して「怖いだけの治療」ではなく、がんと向き合う際の重要な味方であることが理解できます。

治療を受けるかどうかは、患者さん自身の意思が最も尊重されるべきものです。そのため、主治医としっかりコミュニケーションを取りながら、自分にとって最善の治療を選択していくことが何より大切です。

抗がん剤治療に対する不安や疑問がある場合には、ぜひ遠慮せず主治医や医療スタッフに相談してください。正しい知識は、不安を和らげるだけでなく、治療に前向きに取り組むための大きな力になります。