がんは、患者さん本人だけでなく、その周囲にいる家族の心や生活にも深い影響を与える病気です。特に配偶者やパートナー、親ががんと診断された場合、多くの家族は“自分にできることは何でもしたい”“治るために力になりたい”と強く願います。そうした思いは、当然のことであり、愛情のあらわれでもあります。
しかし一方で、その「良かれと思っての行動」が、時には患者さんの負担になったり、治療を妨げたり、さらには家族自身を追い詰めてしまうこともあります。
そこで今回は、家族ががんになったときに やってはいけない3つのこと をお伝えしたいと思います。これは、がん医療の現場で多くの患者さんとご家族を見てきた中で、特に大切だと感じているポイントです。

家族ががんになると、多くの人が「負担を減らしてあげたい」と考えます。
これまで患者さんが行っていた家事や役割を代わりに行おうとするのは、ごく自然な行動です。買い物、ゴミ出し、洗濯、料理、細かな雑務まで、つい「私がやった方が早いし楽だろう」と思って動いてしまうものです。
しかし、この“代わりにやってあげる”という行為が、知らないうちに患者さんから 体を動かす機会を奪ってしまう ことがあります。がん治療中は体力が落ちやすく、筋肉量が減少しやすい時期です。そして、筋肉量の低下は患者さんの予後(生存率)を下げる可能性があることが、研究でも示されています。
つまり、「休ませてあげたい」という気持ちが、逆に患者さんの身体機能を落とす原因になってしまうことがあるのです。
もちろん、治療の副作用で動くことが難しい時期もあります。ですが、基本的には “これまで患者さんがしてきた日常的な役割は、可能な範囲で続けてもらう” ことが大切です。
家族に役立っているという実感は、患者さんにとって「生きる力」になります。「誰かに必要とされている」という感覚は、治療への前向きさを維持する上でも重要です。

がんの診断が下りると、親戚や友人、知人など、周囲の人からさまざまなアドバイスを受けることが増えます。
「このサプリが効くらしいよ」
「玄米菜食がいいって聞いた」
「人参ジュースで治った人がいる」
「この葉っぱを使った温灸が良いらしい」
こうした“善意のアドバイス”は、ほとんどのがん患者さんや家族が経験します。すすめてくれる人も悪気があるわけではなく、「役に立てれば」と思って言ってくれているのです。
しかし問題は、それらの多くが 科学的根拠(エビデンス)に基づいていない という点です。効果が証明されていない健康食品、高額なサプリメント、民間療法…。これらを安易に取り入れてしまうと、以下のような問題が生じます。
がん治療の基本は、あくまでも 標準治療(科学的に効果が証明された治療) です。
そして生活において必要なのは以下の4つだけです。
エビデンスのない治療法に大切なお金や時間を使う必要はありません。迷ったときは主治医やがん相談支援センターに相談してください。

がん患者さんを支える家族は、しばしば自分のことを犠牲にしてしまいます。
「自分が弱音を吐いてはいけない」
「健康な自分が頑張らなければ」
「自分がしっかりしなきゃ」
そう考えて、気持ちを押し殺してしまう人が非常に多いのです。
しかし、これが最も大きな落とし穴になります。
がん医療の世界では、家族のことを “第二の患者” と呼ぶことがあります。それほど家族には大きな心理的負担がかかるということです。支える側のストレスが積み重なると、
といった形で表れることがあります。
家族が心身ともに健康でなければ、患者さんを支え続けることはできません。
家族が自分の健康を守るために必要なこと
・疲れたらしっかり休む
・趣味やリフレッシュの時間を意識的に確保する
・悩みを一人で抱え込まない
・信頼できる人に話す
・病院の「がん相談支援センター」を活用する
・SNSのコミュニティや専門の相談窓口を利用する
「自分のために時間を使うこと」はワガママではありません。
むしろ、患者さんを支える力を保つために 必要不可欠なケア です。
“家族を支えるために、自分自身も大切にする”
その気持ちをぜひ忘れないでください。
がんは、患者さん一人だけの戦いではありません。しかし、家族だけで背負う必要もありません。医療者、相談窓口、周りの人々、必要であれば社会制度など、さまざまなサポートを利用しながら、「患者さんも家族も無理をしすぎないこと」が最も大切です。
家族が健康で笑顔でいられることが、患者さんの力になります。
どうか無理をしすぎず、助けを借りながら歩んでください。