がん治療を受けている患者さんの多くが直面する問題のひとつに「体重減少」があります。治療の副作用、食欲低下、がんによる代謝の変化など、さまざまな理由が重なり、体重が落ちてしまうことは珍しくありません。
多少の体重減少であれば心配いらない場合もありますが、短期間に急激に痩せてしまったり、減少が止まらず持続していくケースでは、治療効果の低下や予後の悪化につながる可能性が指摘されています。特に、半年で5%以上の体重減少、または元々やせ気味(BMI20以下)の方が2%以上減少した場合は、「がん悪液質(カヘキシア)」と呼ばれる状態と判断され、これが治療成績に強く影響することがわかっています。
だからこそ、がん患者さんにとって、体重を維持することは単なる“美容的な問題”ではなく、治療の効果と生存率を左右する重要な課題なのです。本稿では、体重減少をできる限り防ぐために、今日から取り組める3つのステップをわかりやすく紹介します。

まず取り組みたいのは、自分自身の栄養状態を「知ること」です。現在の状態が良いのか悪いのか、どの程度改善が必要なのかを明確にしなければ、正しい対策を選ぶことはできません。
● 血液検査で栄養状態を知る
栄養状態を判断する際、重要な指標となるのが以下です。
PNIは、血液中のアルブミンとリンパ球数から計算される指標で、体の栄養状態と免疫力の両方を反映する便利なマーカーです。PNIが低いと、感染症にかかりやすくなったり、手術の回復が遅くなったりすることが知られています。
血液検査は主治医で簡単に調べてもらえるため、一度相談してみるとよいでしょう。
● 栄養士の食事指導を活用する
病院によっては、管理栄養士による専門的な食事指導を受けることができます。
「どう食事を整えればいいのか分からない」
「食欲がなくて何も食べられない」
といった悩みを抱えている患者さんにとって、栄養士のアドバイスは非常に頼りになります。
栄養状態の評価は、体重増加の“スタート地点”を把握するための重要なステップです。

体重減少を防ぐためには、とにかく「栄養補給」が重要です。がん患者さんの場合、胃腸の不快感や食欲低下が生じやすいため、「たくさん食べる」のが難しいことも少なくありません。そこで、効率よくカロリーとたんぱく質を補うための工夫が必要になります。
● 食事回数を増やす
1回の食事量が少ない場合、無理に3食で食べようとせず、5〜6回に分けても構いません。
“少量をこまめに”がポイントです。
● 高カロリー・高たんぱくの食材を積極的に
栄養状態が悪いときは、特に たんぱく質 を意識して取りましょう。目安は、「体重1kgあたり1.5gのたんぱく質」です。たとえば50kgの人なら1日に75gが目標になります。
● 良質なたんぱく質がとれる食品
アミノ酸スコアの高い“良質なたんぱく質”の例を以下にまとめます。
動物性と植物性のたんぱく質をバランスよく摂ると、体が利用しやすい形になります。
● 栄養補助食品やサプリの活用
食事だけでは十分に摂れない場合、栄養補助食品の利用も有効です。
などは医療現場でもよく用いられています。
また、

意外に感じるかもしれませんが、体重減少を防ぐために「運動」は非常に有効です。がん患者さんが運動を続けることで以下のような効果が期待できます。
● 食欲が改善する
運動すると胃腸の働きが刺激され、自然と食欲が出てくることがあります。
● 体内の炎症が抑えられる
がん悪液質の原因のひとつに「慢性炎症」がありますが、運動には炎症を鎮める作用があることが研究で示されています。
● 筋肉のオートファジー正常化
有酸素運動は、筋肉の細胞メンテナンスである「オートファジー」を正常化すると報告され、カヘキシアの進行を抑える可能性が示されています。
● 筋肉は“エネルギーの貯蔵庫”
筋トレによって筋肉量を維持することで、体内にエネルギーを蓄えておくことができ、体重減少を食い止める効果が期待できます。
● おすすめの運動
運動は無理に強度を上げる必要はありません。体調に合わせながら継続することが何より大切です。
がん患者さんにとって体重維持は、単なる体型の問題ではなく、治療効果や予後に直結する重要な課題です。
そのためには、
1.自分の栄養状態を把握する
2.食事・栄養補助食品・サプリでしっかり栄養を補う
3.無理のない範囲で運動を継続する
という3つのステップが非常に役立ちます。
がん治療は身体的にも精神的にも負担の大きいプロセスですが、体重を保ち、体力を維持することで、治療をより効果的に進めることができます。主治医や栄養士など医療スタッフと相談しながら、ご自身に合った方法で取り組んでみてください。