抗がん剤治療を続けていると、多くの方が体重の減少を経験します。しかし、実は体重の変化とは別に「筋肉」が減ってしまうことがあり、この筋肉の減少が治療の効果やその後の体調に大きく関わってくることがわかってきました。
今回は、抗がん剤治療中に筋肉が減りやすい理由や、それが生存率の低下と関係しているという研究結果、そして筋肉を守るためにできることについて、できるだけわかりやすくお話しします。

抗がん剤治療中の筋肉の減少は、主に次のような理由で起こると考えられています。
① 食欲の低下
治療の副作用で食欲が落ち、食事量が少なくなりがちです。特に筋肉のもとになる「たんぱく質」が不足すると、筋肉は作られにくくなり、減りやすくなります。
② 活動量の低下
治療の疲れや倦怠感(だるさ)が続くことで、身体を動かす時間が減ります。筋肉は普段から使われることで維持されるため、動く時間が少なくなると自然と筋肉は弱っていきます。
実際に、消化器のがん(食道・胃・膵臓など)の患者さんを対象にした研究では、抗がん剤治療を受けた3ヶ月の間に、平均して 1キログラム の筋肉が減っていたという報告があります。
1キロの肉の塊を想像すると、その量がどれほど大きいかわかると思います。
筋肉の減少は単に体力が落ちるというだけではありません。実は、筋肉が減ることが治療の効果を弱め、生存期間を短くしてしまう可能性があると考えられています。
たとえば、2016年に国際的な医学雑誌に発表された研究では、転移のある大腸がん患者67人を対象に、抗がん剤治療中の筋肉量の変化を調べました。
結果は次のようなものでした。
さらに、年齢・性別・もともとの病気などを調整して分析したところ、
筋肉量が大きく減った人は、亡くなるリスクが約4.5倍に増えた
という結果も示されました。
同じような結果は、大腸がん以外にも、肺がん、胃がん、膵臓がん、胆道がん、卵巣がんなど、多くのがんで報告されています。
つまり、
がんの種類に関係なく、抗がん剤治療中に筋肉が減ることは「治療が効きにくくなるサイン」になりうる
ということが、複数の研究から明らかになっているのです。

では、抗がん剤治療中の筋肉の減少を防ぐには、どうすればよいのでしょうか?
残念ながら、「これをすれば必ず防げる」という方法はまだわかっていません。しかし、いくつか効果が期待できる方法が紹介されています。そのなかから、特に取り入れやすい3つを紹介します。
筋肉の材料となるのはたんぱく質です。
可能であれば、体重1kgあたり1.2〜1.5gのたんぱく質 を目安に摂ることが推奨されています。
例)体重50kgの人
→ 1日60〜75gのたんぱく質
最近の消化器がん患者さんの研究でも、
たんぱく質の摂取量が多い人ほど筋肉量が多く保てていた
という結果が出ています。
食事だけで十分に取れない場合は、
・ホエイプロテイン
・栄養補助食品(エネルギーゼリー、栄養飲料など)
を利用するのも一つの方法です。
食欲がない日は、一度にたくさん食べようとせず、少量を何回かに分けて食べるのがおすすめです。
筋肉を守るためには、やはり「動かすこと」が大切です。
特に、身体全体の筋肉の大部分を占めるのが下半身なので、下半身の筋肉を意識して動かすことが効果的です。
たとえば、
など、自宅でできる範囲で構いません。
体調が悪い日もあると思いますが、
週2〜3回 を目標に、できる日だけでも続けてみましょう。
「続けること」が何より大事です。
研究段階のものもありますが、筋肉の減少を抑える可能性があるサプリメントもあります。
これらはあくまで補助的なものですが、体力づくりや食事のサポートとして取り入れてみるのも良いでしょう。
ただし、薬との相性や体調によっては合わないこともあるため、利用前に主治医に相談することをおすすめします。

抗がん剤治療中の筋肉の減少は、単に体力が落ちるというだけでなく、治療の効果やその後の生存期間にも深く関わっていることが、多くの研究からわかっています。
つまり、
筋肉は “生きる力” に直接つながっている
ということです。
もちろん、治療中は思うように食べられなかったり、体が思うように動かない日もあります。そんなときは無理をする必要はありません。できる範囲で、少しずつ積み重ねていくことが大切です。
たんぱく質を意識した食事、軽い運動、必要に応じたサプリメントなど、小さな工夫を続けることで、筋肉の減少を少しでも食い止め、治療を支える力になります。
今回のお話が、治療を続ける皆さんの力になれば幸いです。