がん治療の中心は、いまも昔も「手術による切除」です。特に早期のがんでは、手術が根治につながる可能性が高く、多くの患者さんが手術を目指して治療に臨まれます。しかし一方で、がんの進行度や広がりによっては、残念ながら「切除ができない」と伝えられることがあります。この言葉は、患者さんやご家族に深い衝撃を与え、「もう希望はないのか」「延命のための治療を続けるしかないのか」と胸が押しつぶされそうになることもあるでしょう。
けれども、「切除不能=終わり」では決してありません。ここでは、その瞬間に立ちすくむ患者さんが、次の一歩を踏み出すための視点をそっとお届けします。

「手術はできません」と告げられたとき、頭の中が真っ白になり、気になることを何ひとつ聞けないまま診察室を後にしてしまう―そんな経験は珍しくありません。落ち着いたら、もう一度主治医に説明を求めてみましょう。
多くの場合、がんが重要な臓器や血管を取り囲むように広がり、安全に切除できないという理由から「切除不能」と判断されます。理由を理解することで、これからの治療方針への納得感が生まれ、精神的な安定にもつながります。

切除可能かどうかの判断は、医師や医療機関によって差が生じることがあります。進行がんだからこそ積極的に手術に挑む外科医もいれば、慎重に判断する医師もいます。
例えば、転移したがんを含めて同時に切除を試みたり、局所進行がんに対して周囲の臓器も合わせて切除する“拡大手術”を行う医療機関も存在します。ただし、どれほど大きな手術をしても再発リスクがゼロになるわけではなく、成功率もさまざまです。
主治医の話を聞き、「ほかの医師の意見も聞いてみたい」と思ったなら、セカンドオピニオンを受けることは決して失礼ではありません。自分の命に関わることだからこそ、納得できる選択が大切です。
近年、抗がん剤治療の進歩により、当初は切除不能でも、治療の効果でがんが縮小し、手術が可能になる「コンバージョン手術」が注目されています。実際、日本の研究では、切除不能ステージIV胃がんの患者さんに対し強力な抗がん剤治療(mDCS療法)を行ったところ、約35%で遠隔転移が消失し、ステージが改善して手術に進めた例も報告されています。
しかし、ここで重要なのは「体力」です。抗がん剤はがん細胞と同時に、患者さんの体にも負担をかけます。せっかく腫瘍が小さくなっても、体力や筋肉量が落ちてしまい、手術に耐えられなくなってしまうこともあります。
だからこそ、
これらを可能な範囲で続けることが、未来の選択肢を広げます。「手術ができる状態に備える」ことは、いまの自分にできる最も確かな力になります。

「切除不能」と聞くと、その言葉だけが独り歩きしてしまい、「もう終わりだ」と思い込む患者さんは少なくありません。しかし、統計を見れば、切除可能でも早期に亡くなる方もいれば、切除不能でも長期にわたり元気に過ごされる方もいます。
放射線治療や薬物療法の進歩により、がんの進行を長く抑えられるケースも増えています。さらに、医療の世界では常に新たな治療法が研究され、治験が始まり、数年後には使用できる薬が増える可能性もあります。
今日では難しいと言われた治療が、明日には新しい形で提供されるかもしれません。だからこそ、希望を捨てず、日々を大切に過ごすことが生きる力へとつながります。
おわりに「切除不能」という診断は、患者さんの心に深い影を落とします。しかし、その後の道は一つではありません。治療の選択肢を知ること、体力を保つこと、そして希望を持ち続けること。それらは決して患者さんの努力だけに委ねられるものではなく、医療者、家族、周囲の人々とともに歩む“チーム”としての取り組みでもあります。
どうか孤独にならず、医療者の言葉に耳を傾け、時には別の視点にも助けを求めながら、ご自身の未来を大切に育てていただければと思います。
あなたの一歩一歩が、必ずや希望へとつながる道になりますように。