―乳がん化学療法をサポートする「絶食模倣食」とは―
抗がん剤治療を受けているとき、「治療の前や期間中に何を食べればいいの?」という疑問を持つ方は多いでしょう。
食事は体力の維持や免疫力の回復に関わる大切な要素ですが、実は抗がん剤治療中に最適な食事法については、まだはっきりとした結論が出ていません。
しかし最近、「絶食模倣食(Fasting-Mimicking Diet:FMD)」と呼ばれる食事法が注目を集めています。これは、短期間の“ほぼ絶食”に近い食事制限が、抗がん剤の効果を高め、副作用を軽減する可能性があるという研究結果に基づくものです。

「絶食模倣食」とは、その名のとおり“絶食をしているような状態”を人工的に作る食事法です。
完全に食べないのではなく、極めて低カロリーで、主に野菜スープや液体中心の食事を短期間続けることで、体を「絶食状態」に近づけます。
この食事法の理論的な背景はこうです:
つまり、絶食によって体の正常細胞を守りつつ、がん細胞に対する抗がん剤の攻撃力を高めるという、一石二鳥の仕組みなのです。
この「絶食模倣食」の効果を検証するために、オランダで行われた研究が世界的に注目されています。
結果は、科学誌『Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)』に掲載されました。
この試験には、HER2陰性のステージIIまたはIIIの乳がん患者131人が参加しました。糖尿病のある人は除外され、治療法は「ネオアジュバント療法」と呼ばれる、手術前に腫瘍を小さくする目的で行う抗がん剤治療です。
患者さんたちはランダムに次の2つのグループに分けられました:

絶食模倣食では、野菜を中心としたスープや液体食が主体です。
食べる時間や回数に制限はなく、空腹を感じたら自由に摂取してよいという柔軟なスタイルです。
カロリーの内訳は次の通りです:
このように、4日間で合計1,800kcal程度という非常に低いエネルギー摂取量となります。
しかし、栄養バランスを考慮して構成されており、完全な絶食とは異なります。
結果として、副作用(毒性)には両グループで明確な差はありませんでした。
しかし、抗がん剤の「がん細胞を減らす効果」には大きな違いが見られたのです。
さらに、切除した腫瘍を顕微鏡で調べたところ、90~100%のがん細胞が消滅していた割合も、絶食模倣食の方が高い結果でした。
また、正常な免疫細胞であるTリンパ球のDNA損傷が軽減していたことも確認され、正常細胞を保護する効果が示唆されました。
研究チームは、「乳がんに対する抗がん剤治療前後における絶食模倣食は、安全で有望な補助療法である」と結論づけています。
現在、この試験に参加した患者さんの生存率の追跡調査が続けられており、今後の長期的な成果が期待されています。

ここで大切なのは、現時点では絶食模倣食を安易にまねるのは危険だということです。
確かに短期間の絶食が体に良い影響を与える可能性はありますが、
がん治療中の体は非常にデリケートで、栄養状態を誤ると体力低下や感染リスクを高める危険性があります。
特に、
これらの場合は、絶食や極端な食事制限は命に関わる危険を伴うこともあります。
必ず主治医や栄養士と相談し、医療のもとで安全に行うことが重要です。
抗がん剤治療中は、「食べて体を支えること」が一般的な栄養管理の基本です。
しかし、研究が進むにつれて、「食べない時間を作ること」が治療をサポートする可能性も見えてきました。
科学は常に進化しています。
今後、さらなる臨床研究が積み重ねられれば、絶食模倣食ががん治療の新しい選択肢として確立されるかもしれません。
現段階では、焦らずに最新の情報を見守りながら、医療チームとともに「自分に合った食事法」を見つけていくことが最善です。
「食べるか、食べないか」。
そのどちらも、命をつなぐための大切な選択です。
食事を“制限”するのではなく、“体をいたわる手段”として考える――。
それが、これからのがん治療における新しい食の形かもしれません。