
がん患者にとって筋肉が重要であることは、近年ますます明らかになっています。筋肉量や筋力が低下した状態は、治療そのものの妨げとなり、手術後の合併症を増やし、生存期間を短くしてしまうこともあります。また、抗がん剤治療では副作用が強く出やすく、治療効果が十分に得られないことも知られています。どのような治療を選ぶにしても、筋肉量を維持し、可能であれば増やしていくことが、がん治療を成功へと導く大切な鍵となるのです。
しかし、診断された段階ですでに筋肉量が落ちている場合も少なくありません。また、治療の影響によりさらに筋肉が減ってしまうこともあります。一度失われた筋肉を取り戻すのは容易ではありませんが、短期間で効率よく筋肉をつける方法は存在します。ここでは、がん患者のための「筋肉を育てる三つのコツ」をご紹介します。
人体の筋肉の約七割は下半身に集中しています。そのため、上半身だけでなく下半身を意識的に鍛えることで、効率よく筋肉量を増やすことができます。なかでも、負担が少なく取り組みやすい代表的な運動がスクワットとカーフレイズです。
● スクワット
足を肩幅に開いて立ち、お尻を後ろへ引くようにしながらゆっくりとしゃがみ、ゆっくり立ち上がります。できる範囲で深くしゃがむことで、太ももやお尻の大きな筋肉をしっかりと刺激できます。
● カーフレイズ(かかと上げ)
まっすぐ立ち、ふくらはぎの筋肉を意識しながらつま先立ちを繰り返します。椅子や壁につかまりながらでも行えるため、体力が落ちている時期でも取り入れやすい運動です。
無理のない範囲で、毎日の習慣にしやすいトレーニングから始めることが、継続と成果につながります。

筋肉量を維持・増加させるためには、筋肉の材料となるたんぱく質の補給が欠かせません。特におすすめなのがホエイプロテイン(乳清たんぱく質)です。ほかの種類のプロテインに比べて吸収が早いことが特徴で、筋トレ直後に摂取することで効率よく筋肉づくりを助けてくれます。
2018年に日本で行われた高齢女性を対象とした研究では、
現在はさまざまな種類のホエイプロテインが市販されているので、味や飲みやすさなど、続けやすいものを選ぶとよいでしょう。

HMB(3-ヒドロキシイソ吉草酸)は、必須アミノ酸ロイシンからつくられる成分で、筋肉の分解を抑える働きがあるとして注目されています。
動物モデルの研究では、がんに伴う悪液質(カヘキシア)による筋肉量の減少をHMBが抑制することが示されています。さらに、進行がん患者を対象とした臨床研究でも、HMBを含む栄養補助を行った群で筋肉量の増加や症状の改善が報告されています。
また、サルコペニア(筋肉量の減少・筋力低下)をもつ高齢の胃がん患者を対象に、手術前から運動療法と栄養サポートに加えてHMBを摂取したところ、サルコペニアの改善が認められたという興味深い報告もあります。
臨床データはまだ限られていますが、筋肉量の維持・増加を助ける成分としてHMBは期待されています。現在は多くのメーカーからサプリメントが販売されており、選択肢も豊富です。
がんと向き合うとき、治療だけに集中したくなるものですが、身体を支える「筋肉」を育てることは、治療そのものを強く支える力となります。下半身を中心とした適度な運動、筋トレ後のたんぱく質補給、そして筋肉の減少を抑えるHMB――これら三つの取り組みを無理のない範囲で続けることで、体力と生活の質を守る大きな助けになるでしょう。
筋肉は裏切らない。がん治療をともに歩む心強い味方として、今日からできる一歩を踏み出してみてください。