抗がん剤による「手足のしびれ(末梢神経障害)」サプリで改善:乳癌患者での臨床研究より

抗がん剤による「手足のしびれ」はサプリで軽減できる?最新研究から見える可能性

抗がん剤治療を受ける多くの患者さんが悩まされる副作用のひとつに、「末梢神経障害」があります。治療の種類や投与量にもよりますが、特定の抗がん剤で特に起こりやすい副作用として知られており、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすことがあります。
本記事では、この末梢神経障害の特徴や、近年注目されている「サプリメントによる予防・軽減の可能性」について、海外で行われた研究をもとに詳しく紹介していきます。

■ 抗がん剤による末梢神経障害とは?

■ 抗がん剤による末梢神経障害とは?

末梢神経障害とは、抗がん剤によって手足の末梢神経がダメージを受けることで生じる一連の症状を指します。具体的には、以下のような症状がよく見られます。

  • 手足のしびれ(じんじん、ビリビリする感覚)
  • 冷たいものに触れると強く痛む
  • 筋肉痛のような不快感
  • 手や足に力が入りにくくなる(脱力)
  • 物がつかみにくい、落としやすい
  • ボタンをかけるなどの細かい作業が難しくなる
  • ふらつきやすくなる、転倒のリスクが高まる

これらの症状は、治療を重ねるほど徐々に蓄積する傾向があります。また、抗がん剤治療が終了した後も、すぐに改善しない場合が多いことも特徴です。場合によっては数か月、長い場合には数年続くこともあります。

■ 末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤とは?

特に以下の薬剤は末梢神経障害を引き起こしやすいことが知られています。

  • パクリタキセル(タキソール)
  • ナブパクリタキセル(アブラキサン)
  • ドセタキセル(タキソテール)
  • ビンクリスチン(オンコビン)
  • シスプラチン(ブリプラチン・ランダ)
  • オキサリプラチン(エルプラット)

これらは多くのがん治療で使用される薬剤であり、副作用への対策は患者さんにとって大きな課題となっています。

■ 現在の一般的な対策

末梢神経障害への対策としては、次のような方法が現在用いられています。

  • 原因となる抗がん剤の減量・中止
  • 痛み止め(鎮痛薬)の処方
  • マッサージや温熱療法
  • 手袋や靴下などで冷えを防ぐ
  • ビタミン剤などの処方

しかし、これらの対策だけでは劇的な改善を得られないことも多く、世界中でより効果的な治療法の研究が続けられています。その中で近年注目されているのが、「サプリメントが症状を軽減する可能性」です。

■ サプリメントは効果がある?海外研究「DELCaP試験」

■ サプリメントは効果がある?海外研究「DELCaP試験」

2017年12月、J Natl Cancer Inst.(米国の主要ながん研究誌)に、サプリメントの摂取と抗がん剤による末梢神経障害の関係を調べた研究結果が報告されました。研究名は「DELCaP試験」です。

● 試験の概要

  • 対象患者: 乳がん(ステージⅠ〜Ⅲ)を対象
  • 治療内容: ドキソルビシン、シクロフォスファミド、パクリタキセルの併用療法
  • 調査方法:
    がんの診断前・診断時・治療中の生活習慣やサプリメント摂取についてアンケートを実施
  • 解析対象: マルチビタミンを含む各種サプリメントの利用状況を回答した1225名

● 研究で調べたサプリメント

  • マルチビタミン
  • ビタミンC、D、E
  • ビタミンB6、B12、葉酸
  • カルシウム、鉄
  • オメガ3脂肪酸
  • グルコサミン

これらの摂取と末梢神経障害の発生率との関連を調べました。

■ 研究結果:マルチビタミンに有効の可能性

1)診断前からマルチビタミンを摂取していたグループ

  • 末梢神経障害の症状が40%減少

治療が始まる以前からマルチビタミンをとっていた人では、症状が明らかに少ない結果となりました。

2)治療中のみマルチビタミンを摂取したグループ

  • 症状が27%減少

診断前ほどではありませんが、治療中にマルチビタミンを摂取した人でも症状が軽減する傾向が見られました。

3)その他のサプリメントは効果なし

ビタミンB群やビタミンC、D、Eなど、個別のビタミン・栄養素では症状軽減の効果は認められませんでした。

つまり、この研究で効果が示されたのはマルチビタミンだけ という結果でした。

ただし、なぜマルチビタミンだけが有効で、個々のビタミンでは効果が見られなかったのか、理由はまだ明らかになっていません。

■ 日本のガイドラインの見解

日本がんサポーティブケア学会が公表している「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版」では、ビタミンB12製剤の有効性については「エビデンスが非常に低く、有効性は明らかでない」とされています。

マルチビタミンの有効性についても、現時点では決定的とは言えず、今後の大規模なランダム化比較試験での検証が必要とされています。

■ まとめ:マルチビタミンは“試す価値あり”

■ まとめ:マルチビタミンは“試す価値あり”

現時点で確実な治療法が少ない末梢神経障害において、今回紹介した研究結果は、患者さんにとって希望となる可能性があります。

  • マルチビタミンは症状の軽減に関連する可能性がある
  • 診断前から摂取していた人のほうが症状が少なかった
  • 治療中の摂取でも一定の軽減効果が見られる
  • 他のビタミン単剤には効果が認められなかった
  • ただし、効果のメカニズムは不明で、さらなる研究が必要

抗がん剤治療による手足のしびれで苦しむ方にとって、マルチビタミンの摂取は比較的安全であり、試す価値のある選択肢といえるでしょう。ただし、サプリメントの使用を検討する際は、治療内容や体調によって相性の悪い場合もあるため、必ず担当医や薬剤師に相談することをおすすめします

末梢神経障害は、患者さんの生活を大きく揺さぶるつらい副作用のひとつです。研究がさらに進み、より効果的な予防・治療法が確立されることが期待されています。