がん治療が大きく進歩した現代においても、患者さんの身に突然降りかかる危険な状況が存在します。それが 「オンコロジカル・エマージェンシー(がん関連救急)」 と呼ばれる、命に関わる急性の病態です。これは、がんそのものが引き起こすこともあれば、治療の過程で生じることもあります。重篤な状態へと急速に進行するケースもあり、早期に“異変に気づく力”が大切です。
ここでは、主なオンコロジカル・エマージェンシーと、その特徴・注意すべき症状について、できるだけわかりやすく解説いたします。

抗がん剤治療の一般的な副作用として、骨髄の働きが落ち、白血球や赤血球、血小板が減少することがあります。なかでも免疫を担う好中球が一定のレベルを下回ると、37.5度以上の発熱や悪寒、頭痛、関節痛などが現れます。
FNは短時間で重症化し、敗血症へ進行する可能性があるため、症状に気づいたらすぐに医療機関へ連絡することが非常に重要です。
白血病などの血液がんに多いものの、固形がん患者でも起こりうる合併症です。腸管粘膜が傷つき、体の防御機能が低下しているところへ細菌が侵入することで、右下腹部の激しい痛みと発熱を伴いながら急速に悪化します。
死亡率が高く、敗血症へ至ることも多いため、迷わず緊急受診が必要です。
急性白血病をはじめ、すい臓がん・胃がんなどの進行がんに伴って生じやすい合併症です。血液を固める力と溶かす力が過剰に働くことで、臓器に血栓が詰まったり、逆に出血が起こったりします。
転移のあるがん患者さんの約1〜1.5割で兆候が見られるとされ、命に直結するため迅速な対応が求められます。

骨転移によって脊椎から腫瘍が広がり、脊髄を圧迫することで起こります。がん患者の約5%に起こるとされ、背中の痛み、しびれ、筋力低下、排泄がうまくできないなどの症状が現れます。
早期に診断し治療すれば、神経障害を最小限にとどめる可能性があります。
脳に転移した腫瘍により脳圧が上がり、頭痛、吐き気、嘔吐などが生じます。転移した場所によっては、言葉が出にくい、手足が動かしづらいなどの神経症状も見られます。
命に関わる病態であるため、普段と違う頭痛や意識の変化には特に注意が必要です。
腫瘍が腸をふさいだり、外側から圧迫したり、腹膜播種によって腸が動かなくなったりすることで起こります。激しい腹痛、嘔吐、便やガスが出ないなどの症状が特徴です。
早期に適切な処置を受けることで、苦痛の軽減や重篤化の予防が期待できます。
胃がん・大腸がんのほか、抗がん剤の影響で血が止まりにくくなっている場合にも発症します。吐血や下血が代表的な症状です。
緊急内視鏡、血管塞栓術、状況によっては外科的手術が必要となります。
乳がん、腎がん、肺がんなどに多く見られる代謝異常で、がん患者さんに起こる緊急代謝異常の中では最も頻度の高いものです。症状は気づかれにくいものの、進行すると倦怠感、意識障害、不整脈などが出現します。
カルシウム値が高いほど危険度が上がるため、定期的な採血が欠かせません。

がん患者は血液が固まりやすい状態にあるため、静脈にできた血栓が肺へ飛び、突然の息切れ、胸痛、ショックを引き起こすことがあります。無症状の場合もありますが、進行すると命を落とす危険があります。
オンコロジカル・エマージェンシーは、どれも迅速な対応が必要な病態です。
「いつもと違う」「何かおかしい」と感じたときこそ、早めに主治医や治療先へ連絡してください。
がん治療は医療者だけが支えるものではありません。
患者さんご自身やご家族が体調の変化に気づく力も、大切な治療の一部です。
あなたの安心と安全を守るために、どうか気になる症状を我慢せず、早急に相談してください。