
がんの治療を続けている方には、日頃から「できる範囲で運動を続けてくださいね」とお伝えすることがよくあります。運動が健康に良いという話は広く知られていますが、がんの患者さんにとって運動が特に大切な理由のひとつに、「筋肉から抗がん作用をもつ物質が出てくる」という興味深い事実があります。
いわば、運動することで体の中に“天然の抗がん剤”が作られるようなイメージです。
最近では、この筋肉から生まれる物質が、がんの進行や生存率にまで関係している可能性がある、という研究結果も報告されています。今回の記事では、その内容をわかりやすくお話ししていきます。
私たちの筋肉は、体を支えたり動かしたりするだけではありません。運動すると、筋肉からはさまざまな物質が血液中に分泌されます。これらは総称して「マイオカイン」と呼ばれています。
マイオカインは、体の調子を整えたり、体重管理に役立ったり、免疫の働きを助けたりするものが多く、健康維持に大きく関わっています。そのなかには、がんと戦う力を持つものも存在します。ここからが本題です。

これまでの研究で、いくつかのマイオカインががん細胞の活動を抑える働きを持つことがわかっています。代表的なものを紹介します。
●イリシン
乳がんやすい臓がんなどの細胞の増殖を抑える働きがあるとされる物質です。運動によって分泌量が増えることが確認されています。
●インターロイキン6(IL-6)
名前は難しく聞こえますが、運動することで増える物質のひとつです。体の免疫細胞を活性化させ、がん細胞のもとへ集まりやすくする手助けをすると考えられています。
●スパーク(SPARC)
今回の主役です。大腸がんの細胞に対して、死滅を促すような働きを持つことが実験で示されています。
どのマイオカインも、運動と深い関係があり、筋肉をよく使うほど分泌されやすくなるという特徴があります。
スパークは京都府立大学の研究グループによって、2013年に抗がん作用を持つ可能性がある物質として報告されました。
研究によると、サイクリングなどの有酸素運動を行うと、運動直後から血液中のスパークが上昇し、約3時間は高いまま維持されることがわかっています。
さらに、大腸がんの細胞にスパークを加えると、
といった変化が実験で確認されています。
つまり、スパークは「運動すると増える」「がん細胞を弱らせる可能性がある」という2つの特徴を持つ、非常に興味深い物質なのです。

さらに注目すべきは、スパークの量が多い患者さんほど長生きしている、という臨床試験の結果です。
2020年に医学雑誌「Cancers」で報告された試験では、消化器がんの患者さん417人を対象に、血液中のスパーク量と生存率の関係を調べました。
結果は驚くべきものでした。
この2つのグループに分けて比べたところ、スパークが少ない人では、死亡のリスクがなんと 2.25倍 も高かったのです。
もちろん、スパークの量は運動だけで決まるものではなく、遺伝的な要因や体質など、さまざまな影響を受けます。しかし、少なくとも「運動によってスパークが増える」ことはわかっています。
このことから、「運動を続けている人のほうが、結果としてスパークが多く、予後が良い可能性がある」という見方ができるわけです。
では、私たちはどんな運動をすればよいのでしょうか?
このような息が弾む程度の有酸素運動や、やさしい筋トレで十分です。長時間しなくても、短い時間を毎日続けるほうが効果的です。
「がん治療中に運動して大丈夫?」と思う方もいますが、無理のない範囲での運動は、体力を維持したり気持ちを安定させたりする効果もあります。まずは主治医と相談しながら、できることから始めてみましょう。
運動すると筋肉から分泌される「マイオカイン」は、体の調子を整えるだけでなく、がんと戦う力を持つものも多く存在します。その中でもスパークは、がん細胞を抑える働きが報告されており、血液中に多いほど生存率が高いという研究結果もあります。
つまり、運動を続けることは
といった、複数のメリットがあるということです。
無理のない範囲で体を動かす習慣をつくり、“自分の力で作り出す抗がんパワー”を味方につけていきましょう。