
― 治療中の暮らし方でよくある疑問に答えます ―
抗がん剤の治療を受けている方から、よくこんな質問をいただきます。
「治療中は運動を控えたほうがいいのでしょうか?」
「身体を動かすと負担になってしまいますか?」
治療中は、体力が落ちたり、気持ちも不安定になったりするため、いつも通りに動いていいのか迷う方はとても多いと思います。
休んだ方がいいのか、それともできる範囲で身体を動かしたほうが良いのか――。今回は、この素朴な疑問について、近年の研究結果を参考にしながら、わかりやすくお話しします。
以前は、「治療中はできるだけ安静に過ごすべき」という考えが一般的でした。しかし、最近では「無理のない運動は、むしろ治療の助けになる可能性がある」という見方が広がっています。
その理由の一つが、運動が体のなかの血液の流れをよくするということです。
血液の流れが整うと、身体のすみずみまで酸素や栄養が行き渡り、逆に不要な老廃物は排出されやすくなります。これが健康維持に役立つだけでなく、治療中の身体にも良い影響を与える可能性があると考えられているのです。
では、実際にどのような研究があるのでしょうか。
2019年に発表された研究では、すい臓がんの治療を受けているマウスを使った実験が行われました。
実験では、
の二つを比較しています。
その結果、運動をしたグループでは、腫瘍(しゅよう:しこり)の成長がゆっくりになり、さらに生きられる期間も長くなったという報告がありました。
興味深いのは、運動をしたマウスでは、腫瘍の中にある血管の数が増えていたという点です。腫瘍の中の血管が増えると、抗がん剤が届きやすくなるため、治療の効果が高まる可能性が考えられます。
動物実験だけでは、私たち人間にも本当に当てはまるのかが気になりますよね。そこで次に紹介するのは、実際の患者さんを対象にした研究です。
手術が可能なすい臓がんと診断された70人の方が、手術前に抗がん剤治療を受けていました。その期間中、
がありました。内容としては、
・60分の軽い有酸素運動(ウォーキングなど)
・60分の筋力トレーニング
この二つを組み合わせたものです。
そのうち、実際に手術を受けた方の腫瘍組織を調べたところ、運動をしていたグループでは、腫瘍の中の血管の数が多く、また細かい血管も豊富であることがわかりました。
この結果は、動物実験と同じく、運動が身体の中の環境を整えることで、治療が届きやすい状態をつくっている可能性を示しています。
こうした研究から言えるのは、
治療中の無理のない運動は、抗がん剤が身体の中で働きやすい環境を整えるかもしれない
ということです。
もちろん、今のところは「絶対に効果がある」と言い切れるわけではありませんが、多くの研究が「運動は治療のプラスになる可能性がある」という方向で結果を示し始めています。
結論としては、
★ 無理のない範囲で、できるだけ身体を動かしたほうが良い
と言えます。
しかし、ここで大切なのは、自分の体調に合わせることです。
抗がん剤の種類や副作用の出方は人それぞれで、「いつもの運動ができる日」もあれば、「今日は少し動くのもつらい」という日もあります。
治療の日や、副作用がある日の運動は、もちろん無理をする必要はありません。
治療中に運動をする際に、ぜひ覚えておいてほしいことがあります。
「疲れた」「今日はしんどい」と感じたときは、すぐに休んで大丈夫です。無理をした運動は逆効果になります。
貧血がある方は、少し動いただけでも息切れしやすくなります。運動の前に必ず主治医に相談しましょう。
治療前から心臓や肺に不安がある方は、運動の内容や強さに制限が必要なことがあります。
歩く、軽いストレッチ、室内での軽い筋トレなど、身体に負担の少ないもので十分です。
抗がん剤治療中は、どうしても体力が落ちたり、気持ちが沈みがちになったりします。しかし、少しでも身体を動かすことで、
など、日々の生活に良い変化を感じる方も多いのです。
運動は決して「頑張らなければいけないもの」ではありません。
あなたのペースで、あなたの体に合わせて、できる範囲で取り入れていけば十分です。

「抗がん剤治療中に運動をしてもいいのか?」という質問に対して、最新の研究から見えてきた考え方は、
◎ できる範囲の運動は、治療の力になる可能性がある
◎ ただし、体調に合わせ、無理をせず、必ず主治医に相談しながら進める
ということです。
運動は、特別な道具も準備もいらない、もっとも身近なセルフケアです。
心と身体の調子を整えるための味方として、ぜひ上手に取り入れてみてください。