がん治療に携わっていると、肝胆膵領域、なかでも胆管がんや膵臓がんがいかに治療の難しい疾患であるかを、日々痛感します。手術や化学療法、放射線治療といった最善の医療を尽くしても、思うような結果にたどり着けないことがある──これは患者にとっても医療者にとっても、決して軽くはない現実です。
なかでも患者さんが強く抱きやすいのが「再発への恐れ」です。治療を終えても、どこかに潜むかもしれない見えない不安。小さな痛みや体調の変化が、すぐに「再発では?」という連想を呼び、心を締め付けてしまうことがあります。
実際に、がん再発への恐怖(Fear of Cancer Recurrence:FCR)は、ただ心を曇らせるだけではなく、患者の健康状態や生存率にまで影響を及ぼしうることが研究によって報告されています。
ある研究では、467名のリンパ腫患者を対象に、生活の質や再発への恐怖、不安の強さなどを評価し、その後の生存状況を追跡しました。その結果、再発を強く心配している患者は、そうでない患者と比べ、全ての死因による死亡リスクが約2.5倍に上昇していたといいます。特に進行の遅い低悪性度の非ホジキンリンパ腫では、この傾向が顕著に現れ、再発を恐れる患者の死亡リスクは最大6.8倍にまで増加していました。
さらに、研究参加者の約16%を占める「強い再発恐怖」を持つ患者では、リンパ腫による死亡リスクが2.6倍に上昇し、身体的・精神的健康の両面で生活の質が低下していました。
つまり、再発への恐怖そのものが、患者の人生の質と生存に深く関わる可能性があるのです。
では、再発が心に影を落とすとき、どのように対処すればよいのでしょうか。
第一に大切なのは、主治医から「正確な情報」を得ることです。再発リスクが低いにもかかわらず、誤解や思い込みによって不安を大きくしてしまうケースは少なくありません。気になる症状や痛みがある時は、一人で抱え込まずに主治医や看護師に相談することで、根拠のある安心感を得られることがあります。
また、がん再発の恐怖が強く、日常生活に支障が出るほど頭から離れない場合は、心の専門家によるカウンセリングや薬物療法も有効です。日本ではがん患者の心のケアが十分とはいえない現状もありますが、患者自身が積極的に支援を求めることは、決して悪いことではありません。

自分自身で試せる方法としては、
「不安をノートに書き出す」
ことが挙げられます。言葉として視覚化することで、不安が整理され、「漠然とした恐れ」を「具体的に扱える心配」へと小さくする効果があります。
さらに、趣味や好きなことに没頭する時間を意識的に作ることも心を助けます。再発の不安から一時的に心を解き放つ時間は、精神の回復にとって非常に大切です。
そしてなにより重要なのは、**「わからない未来に心を奪われ過ぎないこと」**です。
人は誰しも、今日という日を生き、明日を確約されているわけではありません。がんで亡くなるかどうかだけでなく、他の病気や事故も含めて、未来の出来事は誰にも予測できません。
だからこそ、朝目覚めたときに「今日も一日をいただけた」ことに感謝する──その小さな姿勢が、心に静かな強さを育ててくれます。

がん再発への恐れは、患者にとって非常に自然な感情です。しかし、その不安に押し潰されてしまう必要はありません。正しい情報を得ること、心のケアを取り入れること、そして今日という一日を大切にすること──これらの積み重ねが、再発の恐怖を和らげ、より豊かな時間を取り戻す手助けとなるはずです。