がんの治療中、気をつけておきたい体の変化はいくつもあります。その中でも特に注意が必要なのが「腸閉塞(ちょうへいそく)」と呼ばれる状態です。これは文字どおり、腸の中がつまってしまい、食べ物や便が進まなくなることを指します。がん患者さんでは起こりやすいトラブルのひとつであり、早めの気づきと対応がとても大切です。
まずは腸閉塞がどのような状態なのか、イメージしやすく説明しましょう。腸は、食べたものを消化し、体に必要な栄養を吸収しながら、最終的には便として送り出す、長い管のような働きをしています。この腸が何らかの理由でうまく動かなくなったり、途中でつまってしまうと、内容物が先に進めなくなります。例えるなら、水を流しているホースが途中で折れたり、物が詰まってしまって水が流れなくなるようなものです。

まず多くの方にみられるのが、便やおならの回数が減ることです。完全に止まってしまうこともあります。同時に、お腹がパンパンに張った感じが出たり、食欲が落ちたり、腹痛や吐き気が出てくることも少なくありません。これらの症状は時間がたつにつれて悪化しやすく、放置してしまうと重症になる危険があります。
さらに、腸がねじれたり強く締め付けられたりして、腸に血液が届かなくなるような重いタイプでは、激しい痛みや繰り返す嘔吐などが起こることがあります。このような場合は命に関わることもあり、すぐに医療機関を受診する必要があります。

① 薬の影響
がん患者さんに処方される薬の中には、腸の動きを弱めてしまうものがあります。特に、強い痛みを和らげるための「麻薬系の痛み止め」は、便秘になりやすいことで知られています。便秘がひどくなると、腸の中で便が硬くなり、結果的に詰まってしまうことがあります。普段から便秘気味の方は特に注意が必要で、早めに主治医に相談して便をやわらかくする薬を調整してもらうことが大切です。
② 手術後に起こるトラブル
お腹の手術を受けた経験がある方では、腸閉塞が起こりやすくなります。手術後しばらくは腸がうまく動かなくなり、一時的に詰まったような状態になることがあります。また、手術後の回復の過程で腸が他の臓器やお腹の壁とくっついてしまうことがあり、これを「癒着(ゆちゃく)」といいます。癒着があると、腸が引っぱられたり狭くなったりして、そこがきっかけで腸閉塞を引き起こします。驚くかもしれませんが、癒着による腸閉塞は手術の直後だけでなく、何年も経ってから起こることもあります。
近年は、小さな傷ですむ腹腔鏡手術が増えていますが、これはお腹を大きく開く手術に比べて癒着が少ないとされ、腸閉塞の発生を減らす可能性があるといわれています。
③ がんによる腸の圧迫やふさがり
がんが腸の中にできて大きくなると、腸の通り道が狭くなり、最終的にはふさがってしまうことがあります。これは大腸でよく見られますが、小腸で起こることもあります。また、膵臓がんのように腸の近くにある臓器のがんが広がって、外側から腸を押さえつけてしまうケースもあります。
④ がんが腹膜全体に広がった場合(腹膜播種)
がんが進行してお腹の中の膜に散らばることがあり、これを腹膜播種といいます。この状態になると、小さながんのかたまりが腸の周りにでき、それが腸を締め付けて詰まらせてしまいます。1か所だけでなく複数の場所が狭くなることもあり、治療が難しくなる場合もあります。
このように、腸閉塞はさまざまな原因で起こります。では、どう治療するのでしょうか。
治療は原因や症状の重さによって変わりますが、多くの場合まず行うのが「保存的治療」と呼ばれる方法です。

これは、食事や飲み物を止め、点滴で水分や栄養を補いながら腸を休ませる方法です。また、鼻から胃まで細いチューブを入れて、腸にたまった内容物を外に出すこともあります。腸が落ち着いてくると、自然に詰まりが解消されることがあります。
しかし、こうした治療でも改善しない場合や、腸の血流が途絶えてしまうような危険な状態になった場合は手術が必要になります。手術では、腸を締め付けている原因を取り除いたり、狭くなった部分や傷んだ部分を切除したりします。ただし、腹膜播種が原因で腸のあちこちが狭くなっている場合には、手術が難しいこともあります。
多くの腸閉塞は適切な治療で改善しますが、重症のケースでは、お腹の中に炎症が広がったり、細菌が血液中に入り込んでしまうような危険な状態になることがあります。その場合は命に関わることもあるため、早期発見がとても重要です。
腸閉塞は、がんの治療中によく起こりうるトラブルですが、早めに対処すれば改善できる場合が多い症状です。
「便が出ない」「お腹が張る」「気持ち悪い」「吐き気が続く」など、いつもと違うサインに気づいたら、無理をせず早めに主治医に相談してください。
大切なのは、症状を我慢しないこと。そして、小さな変化でも遠慮せず医療者に伝えることです。がん治療を安全に続けていくためにも、腸閉塞の存在を知っておき、早めの対応につなげましょう。