がんの治療中、体温が上がってしまうことは珍しいことではありません。普段より少し熱っぽい程度のこともあれば、高い熱が続いて不安になることもあります。治療の最中は身体の抵抗力が弱くなっているため、発熱は特に慎重な対応が必要です。そこで今回は、がん患者さんにみられる発熱の主な原因と、気をつけたいポイントについてわかりやすくお話しします。
まず、がんそのものが理由で熱が出る場合があります。これを「腫瘍熱」と呼びます。がんの細胞が体の中でさまざまな物質を出し、それが脳の体温を調整する場所に作用することで体温が上昇する仕組みです。
血液のがん(白血病やリンパ腫)でよくみられますが、その他のがんでも起こることがあります。腫瘍熱は、風邪や細菌による感染の熱と違い、強い寒気や震えを伴うことは少ないと言われています。
また、これまでの報告では、腫瘍熱に特徴的とされる傾向として次のような点が挙げられています。
腫瘍熱と判断できれば、通常は解熱剤を使って体温を下げていきます。ただし注意が必要なのは、「腫瘍熱と感染症が同時に起こることもある」という点です。この場合は治療が遅れると危険な場合があるため、慎重な評価が求められます。

がんの治療中は、身体の抵抗力が落ちてしまい、普段より感染しやすくなります。そのため、風邪のような比較的軽いものから、重大な感染症までさまざまな発熱の原因があります。
体を守る力が弱まると、普段なら問題にならないようなウイルスや細菌でも症状が出やすくなります。風邪が長引いたり、胃腸炎になりやすくなったりするのもそのためです。
肺がんの患者さんでは、がんが気道(空気の通り道)をふさいでしまうことで肺炎を起こすことがあります。また、手術後に食べ物や唾液が誤って気道に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が原因で肺炎になるケースもあります。
胆汁の流れる道が詰まってしまうと、そこに細菌が増えて熱が出ることがあります。ステント(細い管)を入れている場合や、手術で胆管と腸をつないだ場合にも起こることがあります。
入院中に、手術の傷口に細菌が入り込んで赤く腫れたり、腹部の内部にうみがたまることで発熱することもあります。

点滴のために体にチューブを入れている方は、その部分から細菌が入って熱が出ることがあります。特に抗がん剤を受ける際によく使用される「CVポート」という埋め込み式の器具は、感染すると高い熱を引き起こすことがあります。
がん治療の中でも特に注意が必要なのが「発熱性好中球減少症(FN)」という状態です。これは抗がん剤の影響で白血球の一種である「好中球」が大きく減ってしまうことで起こります。好中球は細菌やウイルスから体を守る役割を持っているため、これが極端に減ると感染が一気に広がりやすくなり、命に関わることもあります。
FNは、
といった症状が特徴です。
抗がん剤を投与したあと10〜14日頃に最も好中球が減りやすいため、ちょうどその時期に発熱がある場合は、特に注意が必要です。抗がん剤の種類によってFNの起こりやすさは異なるため、主治医から事前にリスクを聞いておくと安心です。
FNが疑われる場合は、夜間や休日であってもすぐに病院へ連絡し、指示を受けることが非常に重要です。血液検査などで状態を確認し、早急に抗菌薬を使用するのが一般的な対応となります。原因が特定できなくても、治療を早めに始めることで命を守ることにつながることがわかっています。

がん治療中は、普段より体温の変化に敏感である必要があります。次のポイントを参考にしてください。
普段なら大丈夫と思うような微熱でも、治療中は大きなサインであることが多いため、少しでも気になる症状があれば迷わず受診しましょう。
がん患者さんの発熱には、がんそのものが原因の場合から、感染症、治療の副作用までさまざまな理由があります。中には緊急の対応が必要なものもありますが、適切に判断し早期に治療を始めれば、多くは落ち着かせることができます。
ご自身で熱をコントロールしようと無理をせず、いつもより体が熱いと感じたときは、その変化を大切にして主治医に相談してください。治療を安心して続けていくためにも、発熱との向き合い方を知っておくことはとても重要です。