がん患者の筋肉と栄養:癌では筋肉が減る・プレハビリテーションの重要性・筋トレ+栄養サポートで生存率が改善

がん治療を支える「筋肉」と「栄養」──サルコペニア予防とプレハビリテーションの重要性

がん治療の成果を大きく左右する要因として、近年とくに注目されているのが「筋肉量」です。がん患者さんの多くに筋肉量減少(サルコペニア)がみられ、治療効果や術後の回復、生存率にまで影響を及ぼすことが分かってきました。本記事では、がん患者さんの筋肉量減少とプレハビリテーション、そして筋トレと栄養サポートによる改善について解説します。

1.がん患者に多い「サルコペニア」

1.がん患者に多い「サルコペニア」

がん患者さんに見られる「激やせ」は、脂肪の減少だけでなく、筋肉量の大幅な低下が主な原因です。研究によれば、がん患者の5〜90%に筋肉量減少が認められ、高齢の患者さんではさらに増加傾向があります。ステージが進むほど筋肉減少が著しいことも確認されています。

サルコペニアという言葉は、ギリシャ語で“筋肉”を表す「Sarco」と“減少”を意味する「Penia」を組み合わせたものです。筋肉が減ることで、握力低下や歩行速度の低下など、日常生活動作にさまざまな支障が生じます。

サルコペニアの主なサイン

  • ペットボトルのふたが開けづらい
  • 階段が上りにくい
  • 歩くのが遅くなる
  • 手足が細くなる

ふくらはぎを指で囲む「指輪っかテスト」も有用な自己チェック法です。

2.がんが筋肉を減らす理由

がんは、単に食欲を低下させるだけでなく、体内の代謝やホルモンバランスを変化させ、筋肉を分解しやすい状態を作ります。主な原因は次の通りです。

  • 炎症性サイトカインの増加による筋肉分解
  • 栄養吸収障害・食欲不振
  • 手術・抗がん剤による副作用
  • 活動量の低下
  • ホルモン異常や代謝異常

このため、がん患者さんのサルコペニアは“二次性サルコペニア”とも呼ばれ、迅速な対処が必要です。

3.サルコペニアは治療成績と生存率に影響する

サルコペニアがある状態で治療に臨むと、

  • 術後合併症が増える
  • 入院期間が延びる
  • 治療効果が下がる
  • 長期生存率が低下する

といったリスクが報告されています。たとえば、肝がんでは術後死亡リスクが約3.2倍、大腸がんで約1.9倍に上昇するなど、がん種にかかわらず悪影響が見られます。

抗がん剤治療では、サルコペニアのある患者さんは

  • 副作用が強まる
  • 薬の効きが悪くなる
  • 生存期間が短くなる
    ことも示されています。

4.手術前から始める「プレハビリテーション

4.手術前から始める「プレハビリテーション」

治療成績を向上させる方法として近年注目されているのが、**プレハビリテーション(Prehabilitation)**です。これは、手術前から運動・栄養・精神面を強化し、手術に備える取り組みです。

主な効果

  • 術後合併症が40〜50%減少
  • 呼吸器合併症は70%以上減少
  • 入院期間が2〜3日短縮
  • 栄養状態・心肺機能の改善
  • 長期生存率の向上

特に、高齢者や活動量の少ない方、体重減少のある方、術前に抗がん剤治療を受ける方には、強く推奨されます。

■ 3つの柱

  1. 運動(有酸素+筋トレ)
  2. 栄養サポート(たんぱく質強化など)
  3. 精神的ケア(不安軽減・専門カウンセリング)

術前の栄養補助食品の活用により、感染性合併症が減少し、入院期間も短くなることが示されています。

5.筋トレ+栄養サポートが生存率を高める

筋肉を維持することは、がん治療の“土台”と言えます。筋力トレーニングは、生存率を高め、死亡リスクを低下させることが複数の研究で確認されています。

おすすめの運動

  • 有酸素運動:週150分(30分×5日)
  • 筋トレ:週2回以上(スクワット、腕立て伏せ、プランクなど)

週1回でも死亡リスクが下がるという報告もあります。

栄養は「筋肉を増やす薬」

■ 栄養は「筋肉を増やす薬」

筋トレ後のホエイプロテイン摂取は、筋肉量の維持・増加に効果的です。
目標となるたんぱく質量は、

体重1kgあたり1.2〜1.5g/日

例:体重50kg → 60〜75g/日
食事のみで補うのが難しい場合は、栄養補助食品の活用が有効です。

まとめ

  • がん患者さんの多くに筋肉量減少(サルコペニア)がみられる。
  • サルコペニアは治療成績・術後合併症・生存率に大きな影響を与える。
  • 手術前からのプレハビリテーションは、術後合併症を抑え、生存率の改善につながる。
  • 筋トレと栄養サポートの組み合わせは、がん治療を支える強力な味方である。

がん治療を「受ける」だけでなく、「備える」ことで、治療の質は大きく変わります。筋肉と栄養を整えることは、明日の身体と人生の質を守る第一歩となるのです。必要なサポートは必ずあります。どうか一人で抱え込まず、治療チームとともに歩んでいきましょう。