がんが進行すると、原発(最初に発生した部位)から離れた臓器へ移動し、そこで新たな腫瘍を形成する「転移」が起こることがあります。そのなかでも、骨への転移である「骨転移」は比較的よくみられる合併症の一つであり、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。
特に、肺がん・乳がん・前立腺がんでは骨転移が多いことが知られています。骨転移は痛みや骨折などを引き起こすことがあり、適切な治療が不可欠です。一方、近年では治療選択肢が増え、予後が徐々に改善しつつあります。本記事では、骨転移を起こしやすいがんの種類、主な症状、標準的な治療法、そして最新の研究にもとづく予後について詳しく解説します。

骨転移はあらゆるがんで起こり得ますが、特に以下の3つのがんで多くみられます。
このほか、
腎臓がん・皮膚がん(悪性黒色腫)・甲状腺がんなどでも骨転移が発生することがあります。
骨は血流が豊富であるため、がん細胞が血液を通じて移動し、定着しやすい場所の一つです。また、骨の中には破骨細胞(骨を壊す細胞)と骨芽細胞(骨をつくる細胞)が常に働いており、その環境ががん細胞の増殖に適してしまうという側面もあります。

骨転移の症状は多岐にわたります。しかし、初期には無症状であることも多く、検査の際に偶然見つかるケースも少なくありません。
主な症状は以下の通りです。
もっとも頻度の高い症状です。痛みは持続性で、夜間に強くなることもあります。また、体重をかけたときに強い痛みが走る場合もあります。
骨が弱くなり、特に背骨(脊椎)で圧迫骨折が起こりやすくなります。背中や腰の痛みの原因となります。
通常では折れないような力でも骨折が起こる状態です。大腿骨や上腕骨などで発生することがあります。
骨が壊されることでカルシウムが血液中に大量に放出されると、
「高カルシウム血症」を発症することがあります。
高カルシウム血症は、
などを引き起こし、緊急の治療が必要となることもあります。
骨転移の治療は、痛みや合併症を抑え、日常生活の質を維持することを目的に行われます。また、原発がんの種類や治療に対する反応によって治療方針が変わります。
主な治療は次の4つです。
骨転移がある場合でも、まずは原発がんを抑える治療が基本です。
使用される薬は、がんの種類によって異なります。
骨転移そのものは薬剤では消えにくいとされていますが、がん全体の活動性を抑えることで症状が改善することもあります。
痛みを伴う骨転移には放射線治療が高い効果を発揮します。
がん治療のガイドラインにおいても、骨転移の疼痛に対する放射線治療は強く推奨されています。
局所に放射線を当てることで、腫瘍の活動を一時的に抑え、痛みを軽減します。
近年、骨転移治療で重要視されている薬剤です。
代表的なものは、
これらの薬は、破骨細胞の働きを抑えることで骨が壊れるのを防ぎ、次のような合併症を減らします。
最近では、薬物療法と並行して行うことが一般的となっており、患者さんのQOLを大きく向上させています。
骨転移による痛みに対しては、状況に応じて鎮痛薬を使用します。
痛みが強い場合でも、適切に薬を組み合わせることでコントロールが可能です。また、部位によっては手術が行われることもあります。

骨転移があると一般的には予後が悪いといわれていますが、近年、治療の進歩によって生存期間は改善してきています。
最新の研究から、骨転移の予後について詳しく見ていきます。
2024年2月に World Journal of Surgical Oncology に報告された研究では、
骨転移を認めた 682人 の患者さんの解析が行われました。
対象がんは主に、
でした。
原発がんの診断から骨転移が見つかるまでの期間(中央値)
乳がんでは、診断から数年たって骨転移が見つかるケースが多いという特徴があります。
2024年2月、Scientific Reports に報告されたイタリアの研究では、
5つのがんデータベースから乳がんの骨転移患者220名が前向きに追跡されました。
骨転移診断後の全生存期間(中央値)
これは以前のデータと比べてもかなり長く、
治療成績が向上していることを示しています。
ホルモン療法、分子標的薬、CDK4/6阻害薬など、
乳がんの治療選択肢が増えたことが、予後の改善につながっていると考えられます。
骨転移はがんの進行とともに多くの患者さんが経験しうる合併症ですが、
近年の治療の進歩によって、症状の緩和と生存期間の延長が可能になってきています。
これらを適切に組み合わせることで、痛みや骨折などの合併症を大きく減らすことができます。
また、最新の研究では、乳がんを中心に骨転移後の生存期間が以前より大幅に長くなっていることが報告されており、希望を持てるデータも増えてきています。
骨転移は不安の大きい合併症ですが、治療の選択肢は確実に広がっています。
適切な治療を受けることで、より良い生活の質を保ちながら過ごすことが可能です。