がん転移に対する治療法

がん治療の中でも特に心をざわつかせる言葉——それが「転移」です。
「転移が見つかった」と医師から告げられた瞬間、頭が真っ白になる患者さんやご家族は少なくありません。

しかし近年、がん治療は確実に進歩しています。
かつては「転移=もう治療法がない」という時代もありましたが、現代医療では 転移がんに対してもさまざまな治療が可能 です。中には治療によって長期生存を得られるケースも珍しくありません。

今回は、「転移が見つかったとき、どんな治療の選択肢があるのか?」
を、できるだけ平易な言葉で解説します。

がんの転移とは何が起きているのか?

がんの転移とは何が起きているのか?

がんの「転移」とは、簡単に言うと

もともとがんがあった場所(原発巣)から、がん細胞が血管の流れに乗って別の臓器へ移動し、そこで新しい腫瘍をつくってしまう状態

のことを指します。

たとえば、大腸がんが肝臓に転移した場合、肝臓にできた腫瘍も「肝臓がん」ではなく 大腸がんの肝転移 と呼ばれます。

がん細胞は非常にしたたかで、血液やリンパ液の流れを利用し、体中を旅することができます。
そして「住みやすい」臓器にたどり着くと、そこに根を張り、増殖を始めてしまうのです。

転移がんの治療はなぜ患者によって大きく違うのか?

転移の治療方針は人によって大きく異なります。
これは決して医師の考え方がバラバラという意味ではありません。

がんの治療には、患者さん特有の状況が非常に大きく影響します。たとえば:

  • 原発巣(最初のがん)の種類
  • 転移した臓器
  • 転移の数や大きさ
  • 転移が見つかったタイミング
  • 年齢、体力、基礎疾患の有無
  • 本人の価値観や治療の希望

これらが複雑に絡み合うため、治療法は 完全にオーダーメイド になります。

そのため、同じ「大腸がんの肝転移」であっても、

  • 手術で切除できる場合
  • 抗がん剤を優先する場合
  • 放射線で局所的に治療する場合
  • 複数の治療を組み合わせる場合

と、選択肢が大きく変わります。

転移がんに対する治療法は大きく2つ

転移がんに対する治療法は大きく2つ

がんの転移に対する治療法は、大きく次の2つに分類されます。

  1. 全身療法(からだ全体に効く治療)
  2. 局所療法(転移した部位を直接治療する方法)

それぞれ詳しく解説します。

1.全身療法:体全体のがんにアプローチする治療

転移がある場合、多くの患者さんが最初にすすめられるのが 全身療法 です。
体のどこかにがんが飛んでいる可能性を想定して、全身に作用する治療を行います。

● 抗がん剤(化学療法)

最も一般的な全身療法です。

抗がん剤は「増殖の速い細胞」に攻撃するため、がん細胞を効率よく減らしたり、増殖を抑えたりすることができます。

  • 病状を進みにくくする
  • 症状を改善する
  • 場合によっては手術可能な状態にまで戻す(コンバージョン療法)

といった効果が期待できます。

● 分子標的薬

がん細胞の特定の性質(増殖のカギとなる遺伝子など)を狙い撃ちする治療薬です。

抗がん剤より副作用が少なく、効果も高い場合があり、近年急速に進歩しています。

● ホルモン療法

乳がんや前立腺がんなど、ホルモンに反応して増殖するがんに用いられます。

内服薬で行える場合が多く、体への負担が比較的少ないのが特徴です。

● 免疫チェックポイント阻害剤

近年大きな注目を集める治療法です。

患者さん自身の免疫を「がん細胞を攻撃できる状態」に戻すことで、がんを小さくし、長期間の生存につながるケースもあります。

◆ 全身療法の目的は「延命」だけではない

多くの人は「抗がん剤は延命だけの治療」というイメージを抱きがちですが、実際は違います。

  • 転移した腫瘍が小さくなる
  • 痛みが減る
  • 食欲が戻る
  • QOL(生活の質)が上がる
  • 手術ができる状態になる

など、 生活を改善し、人生を立て直す力を持つ治療 です。

2.局所療法:転移した部位を直接治療する方法

次に、転移が見つかった「その場所」に対して行う治療です。

全身療法と比べると対象は限られますが、 適応をしっかり満たせば非常に効果が高い のが特徴です。

● 手術(転移巣の切除)

転移が 少数・局所的 に限られている場合、手術で切除することがあります。

特によく行われるのは、

  • 大腸がんの肝転移
  • 大腸がんの肺転移
  • 肝細胞がんの局所的転移

などです。

手術によって転移を完全に取り除けると、 長期生存や治癒も期待できます

● 放射線治療(定位放射線治療など)

近年は放射線技術が大幅に進歩し、
ピンポイントで転移巣を焼きにいく治療(SBRTなど)
が可能になっています。

手術が難しい人でも行えるため、適応は広がっています。

● ラジオ波焼灼術(RFA)

細い針を腫瘍に刺し、電流で熱を発生させて焼き切る治療です。

肝臓の転移巣に対してよく行われます。

身体への負担が比較的少なく、入院期間も短くて済む治療です。

全身療法と局所療法を組み合わせるケースが増えている

全身療法と局所療法を組み合わせるケースが増えている

近年のがん治療では、

  • 抗がん剤で腫瘍を小さくする
  • 転移が少なくなったタイミングで手術や放射線を追加する

といった 併用療法 が増えています。

組み合わせることで、

  • 手術が可能になる
  • 再発リスクが下がる
  • 病状のコントロールが長く続く

といったメリットがあります。

がん治療は、昔の「一度決めた治療を最後まで続ける」という時代から、
状況に応じて戦略を変える時代 になりました。

転移が見つかっても「治療法がない」とは限らない

転移が見つかると、多くの患者さんは

  • もう終わりなのでは
  • 治せないのでは
  • 何もできないのでは

と不安になります。

しかし、外科医として強調したいのは、

「転移=治療法がない」ではない

ということです。

むしろ大切なのは、

  • どの治療で最も効果が期待できるか
  • QOL(生活の質)を保つにはどうしたらいいか
  • 本人の希望をどう治療に反映させるか

を、一つひとつ主治医と検討していくことです。

最後に:転移治療は「あなたに最適な選択」を探すこと

がんの転移治療は、医学の中でも特に「個別性」が強い領域です。
さまざまな治療の組み合わせの中から、あなたにとって最も良い選択を探します。

  • 全身療法だけでいくのか
  • 局所療法を加えるのか
  • 手術を目指すのか
  • 生活の質を優先するのか

その答えは一つではありません。

転移が見つかったとしても、どうか一人で抱え込まず、主治医と率直に相談してください。
そして、可能ならセカンドオピニオンを受けて、治療の幅を広げてほしいと思います。

がん治療は常に進歩しています。
今日治せないものが、明日治せるようになる可能性も十分にあります。

あなたが最適な治療にたどり着けるよう、これからも丁寧に情報を届けていきます。