がん治療の中でも特に心をざわつかせる言葉——それが「転移」です。
「転移が見つかった」と医師から告げられた瞬間、頭が真っ白になる患者さんやご家族は少なくありません。
しかし近年、がん治療は確実に進歩しています。
かつては「転移=もう治療法がない」という時代もありましたが、現代医療では 転移がんに対してもさまざまな治療が可能 です。中には治療によって長期生存を得られるケースも珍しくありません。
今回は、「転移が見つかったとき、どんな治療の選択肢があるのか?」
を、できるだけ平易な言葉で解説します。

がんの「転移」とは、簡単に言うと
もともとがんがあった場所(原発巣)から、がん細胞が血管の流れに乗って別の臓器へ移動し、そこで新しい腫瘍をつくってしまう状態
のことを指します。
たとえば、大腸がんが肝臓に転移した場合、肝臓にできた腫瘍も「肝臓がん」ではなく 大腸がんの肝転移 と呼ばれます。
がん細胞は非常にしたたかで、血液やリンパ液の流れを利用し、体中を旅することができます。
そして「住みやすい」臓器にたどり着くと、そこに根を張り、増殖を始めてしまうのです。
転移の治療方針は人によって大きく異なります。
これは決して医師の考え方がバラバラという意味ではありません。
がんの治療には、患者さん特有の状況が非常に大きく影響します。たとえば:
これらが複雑に絡み合うため、治療法は 完全にオーダーメイド になります。
そのため、同じ「大腸がんの肝転移」であっても、
と、選択肢が大きく変わります。

がんの転移に対する治療法は、大きく次の2つに分類されます。
それぞれ詳しく解説します。
転移がある場合、多くの患者さんが最初にすすめられるのが 全身療法 です。
体のどこかにがんが飛んでいる可能性を想定して、全身に作用する治療を行います。
● 抗がん剤(化学療法)
最も一般的な全身療法です。
抗がん剤は「増殖の速い細胞」に攻撃するため、がん細胞を効率よく減らしたり、増殖を抑えたりすることができます。
といった効果が期待できます。
● 分子標的薬
がん細胞の特定の性質(増殖のカギとなる遺伝子など)を狙い撃ちする治療薬です。
抗がん剤より副作用が少なく、効果も高い場合があり、近年急速に進歩しています。
● ホルモン療法
乳がんや前立腺がんなど、ホルモンに反応して増殖するがんに用いられます。
内服薬で行える場合が多く、体への負担が比較的少ないのが特徴です。
● 免疫チェックポイント阻害剤
近年大きな注目を集める治療法です。
患者さん自身の免疫を「がん細胞を攻撃できる状態」に戻すことで、がんを小さくし、長期間の生存につながるケースもあります。
◆ 全身療法の目的は「延命」だけではない
多くの人は「抗がん剤は延命だけの治療」というイメージを抱きがちですが、実際は違います。
など、 生活を改善し、人生を立て直す力を持つ治療 です。
次に、転移が見つかった「その場所」に対して行う治療です。
全身療法と比べると対象は限られますが、 適応をしっかり満たせば非常に効果が高い のが特徴です。
● 手術(転移巣の切除)
転移が 少数・局所的 に限られている場合、手術で切除することがあります。
特によく行われるのは、
などです。
手術によって転移を完全に取り除けると、 長期生存や治癒も期待できます。
● 放射線治療(定位放射線治療など)
近年は放射線技術が大幅に進歩し、
ピンポイントで転移巣を焼きにいく治療(SBRTなど)
が可能になっています。
手術が難しい人でも行えるため、適応は広がっています。
● ラジオ波焼灼術(RFA)
細い針を腫瘍に刺し、電流で熱を発生させて焼き切る治療です。
肝臓の転移巣に対してよく行われます。
身体への負担が比較的少なく、入院期間も短くて済む治療です。

近年のがん治療では、
といった 併用療法 が増えています。
組み合わせることで、
といったメリットがあります。
がん治療は、昔の「一度決めた治療を最後まで続ける」という時代から、
状況に応じて戦略を変える時代 になりました。
転移が見つかると、多くの患者さんは
と不安になります。
しかし、外科医として強調したいのは、
「転移=治療法がない」ではない
ということです。
むしろ大切なのは、
を、一つひとつ主治医と検討していくことです。
がんの転移治療は、医学の中でも特に「個別性」が強い領域です。
さまざまな治療の組み合わせの中から、あなたにとって最も良い選択を探します。
その答えは一つではありません。
転移が見つかったとしても、どうか一人で抱え込まず、主治医と率直に相談してください。
そして、可能ならセカンドオピニオンを受けて、治療の幅を広げてほしいと思います。
がん治療は常に進歩しています。
今日治せないものが、明日治せるようになる可能性も十分にあります。
あなたが最適な治療にたどり着けるよう、これからも丁寧に情報を届けていきます。