近年、健康診断や人間ドックの普及により、膵臓(すい臓)の検査を受ける機会が増えています。その中で、偶然に膵臓の「のう胞(袋状の変化)」が見つかる方が多くなってきました。その代表的なものの一つが「IPMN(アイピーエムエヌ)」という病気です。今回は、このIPMNがどのような病気で、なぜ注意が必要なのかを分かりやすくご説明いたします。

IPMNとは Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms of the Pancreas の頭文字を取った名称で、日本語では「膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)」と呼ばれます。非常に長い名前ですが、簡単に言うと、膵管の中にできる、粘液を伴う袋状(のう胞性)腫瘍 のことです。
「のう胞性」というのは、腫瘍が袋や風船のように膨らむタイプであることを意味します。実際にIPMNができても、多くの方は自覚症状がありません。そのため、検診の超音波検査やCT検査で偶然発見されるケースが大半です。
CT画像では、膵臓を輪切りにした断面の中央に「主膵管」と呼ばれる太い管が見えます。この主膵管は、膵臓でつくられた消化液(膵液)が通る“本流”の川のようなものです。
IPMNは 主膵管に腫瘍ができる場合(主膵管型) と、主膵管から枝のように伸びる 分枝(支流)にできるタイプ(分枝型)、そして両方に変化が出る 混合型 の3種類に分類されます。
画像で見ると、膵管の一部が風船のように膨らんでおり、これがまさにIPMNの特徴的な形です。
膵臓ののう胞性腫瘍には、IPMN以外にも以下のような種類があります。
・SCN(漿液性嚢胞腫瘍)
・MCN(粘液性嚢胞腫瘍)
・SPN など
いずれも名称が似ており紛らわしいのですが、この中で“膵がんの危険因子”として特に重要視されているのがIPMNです。

IPMNが注目される理由は、膵臓がんにつながる可能性があるため です。
医学的には、
という報告があります。
つまり、IPMNそのものががんに進行する場合と、同じ膵臓の別の場所に膵がんが生じるパターンの両方があり得るため、定期的な経過観察がとても重要なのです。
70歳代の男性の例をご紹介します。この方は、数年前に偶然膵臓ののう胞性病変が見つかり、定期的に観察を続けていました。
ある検査で、のう胞の一部にコブのような隆起(結節)が認められました。こうした結節は、がんを疑う重要なサインです。CTでは結節部分が造影剤で光り、PET-CTでも同部位に集積(異常反応)が見られたため、悪性の可能性が高いという判断に至りました。
腫瘍は膵臓の体部〜尾部の中間に位置しており、この方は「膵体尾部切除術」と呼ばれる手術を受けました。膵臓の体尾部と脾臓が一緒に切除されます。
切除標本を見ると、袋状に膨らんだIPMNが確認され、その一部にモコモコとした隆起性病変があり、これががんであると診断されました。幸いにも、リンパ節転移は認められず、早期に治療が行われたことが功を奏した症例です。

IPMNは放置してよい病気ではありません。以下の点が非常に重要です。
① 専門医による評価
IPMNが良性か、あるいは悪性に進行している可能性がないかを、
肝胆膵内科や膵臓専門外科 などの専門医でしっかり評価してもらう必要があります。
② 定期的な検査
数か月〜1年ごとに、必ず超音波・CT・MRIなどの検査を継続することが大切です。
5年・10年と検査を中断してしまうと、知らないうちにがん化している可能性が否定できません。
③ 症状が出た場合は早めに受診
IPMNそのものは無症状のことが多いですが、一部で膵炎を起こすことがあります。
こうした変化がある場合は、膵臓の病気が隠れている可能性があります。
IPMNは、一般的な膵がんとは異なる疾患ですが、将来的にがんにつながる可能性がある「注意すべき病変」 です。近年は検査精度が向上したことで発見されるケースが増えましたが、見つかったからといってすぐにがんというわけではありません。
大切なのは、
IPMNを正しく理解し、必要なケアを続けていけば、重篤な病気を未然に防ぐことにつながります。膵臓ののう胞性病変を指摘された際は、慌てず、しかし油断せず、適切な医療機関で管理を続けることが何より重要です。