がんの治療に向き合っていると、日々の生活の中で「少しでもできることはないだろうか」と考える瞬間があるのではないでしょうか。食事、運動、睡眠、サプリメント……。どれも気になるけれど、どれが本当に役に立つのか、迷うこともあると思います。
今回は、その中でも「眠りのホルモン」として知られるメラトニンにスポットを当てます。
実はメラトニンには、睡眠だけでなく、前立腺がんや乳がんといったホルモン依存性がんとの深い関係があることが、これまでの様々な研究で明らかになってきています。
この記事では、
こうした疑問に、できるだけわかりやすくお答えしていきます。
がん治療中の方やご家族の方が、少しでも前向きに情報を受け取れるよう、やさしい言葉でまとめました。

私たちは朝になると目が覚め、夜になると眠くなります。この自然なリズムを作っているのが体内時計。そして、その体内時計を整える役割を持っているのがメラトニンです。
メラトニンは脳の中にある「松果体(しょうかたい)」という小さな器官から分泌されます。日が落ちて暗くなると分泌が増え、自然な眠気を誘ってくれます。
そのため「睡眠ホルモン」という別名でも知られています。
しかし実は、メラトニンの仕事は眠りだけではありません。
こうした働きが報告されており、世界中で注目を集めています。
メラトニンとがんの関係を示す研究は数多くあります。
特に、
といった「ホルモン依存性のがん」に関しては関連が深いことがわかっています。
ある研究では、メラトニンの分泌量が多い人は、前立腺がんのリスクが75%も低かったというデータがあります。これはとても大きな数字で、多くの研究者が注目する理由のひとつになっています。
また、女性では夜勤などで睡眠リズムが乱れ、メラトニンが十分に分泌されない場合、
という報告もあります。
実際、夜勤のある女性職員は乳がんになりやすいというデータもあり、WHO(世界保健機関)も「夜勤は発がんリスクを高める可能性がある」と注意喚起しています。
――つまり、メラトニンはがんの発生リスクや、がん細胞のふるまいに影響している可能性があるということなのです。

では実際に、がん治療にメラトニンを使ったら効果があるのでしょうか?
今回ご紹介するのは、前立腺がん患者955人を対象とした大規模な後ろ向き研究(過去の記録を分析する研究)です。
この研究で行われていた治療は、
この2つの併用治療です。
この955人のうち、
していました。
研究者たちは、患者さんの状態をより正確に比べるため、
などをもとに、
の3つに分類しました。
そして、それぞれのグループで「メラトニンを飲んでいた人」と「飲んでいなかった人」を比較し、生存期間にどんな差があったかを調べたのです。
研究の結果は次のようなものでした。
●予後良好グループ → 差なし
メラトニンを飲んでいても飲んでいなくても、生存期間にはほとんど違いがありませんでした。
●中間グループ → 差なし
こちらも明らかな差は確認されませんでした。
しかし――
●予後不良(ハイリスク)グループ → ここで大きな差が!
メラトニンを飲んでいた患者さんのほうが、飲んでいなかった患者さんよりも明らかに長く生存していました。
特に5年生存率では、
という大きな違いが出ました。
これは、ハイリスクの前立腺がん患者さんにおいて、
「メラトニンが生存期間を延ばす可能性がある」
ことを示す興味深い結果です。
もちろん、この研究は「後ろ向き研究」であり、因果関係(メラトニンが直接寿命を延ばしたのかどうか)はまだはっきり言えません。
ですが、次のステップとして前向きの臨床試験が期待されています。
研究者が想定しているメラトニンの働きには、以下のようなものがあります。
このように、メラトニンは「眠りのホルモン」以上に、がんと密接に関わっている可能性があるのです。

メラトニンは海外では一般的なサプリメントですが、日本では医薬品扱いです。
そのため、メラトニンを使うことを検討される場合は、
が大切です。
また、メラトニンは比較的安全性の高い物質とされていますが、まれに次のような副作用が出ることがあります。
ほとんどは軽度で、起こっても自然に消えると言われています。
今回ご紹介した研究からわかることは、
という点です。
前立腺がんは全体として5年生存率が高く、治療成績の良いがんですが、中には悪性度の高いタイプもあります。
今回の研究結果は、そうした患者さんにとって、新しい希望のひとつになりうるかもしれません。
がん治療は、標準治療が柱として最も大切ですが、それと同時に睡眠・生活習慣・心の落ち着きといった“全体のケア”もとても大事です。
メラトニンは、
という意味でも、患者さんの生活に優しく寄り添うホルモンです。
もし関心があれば、ぜひ主治医と相談しながら、安心できる方法を一緒に選んでくださいね。