がんという病を前にしたとき、多くの人が「自分にできることはないのだろうか」と思いを巡らせます。
日々の食事や生活習慣に、小さな希望の種を探し求める人も多いことでしょう。
糖質制限やケトン食(ケトジェニックダイエット)も、その「希望の種」のひとつとして語られてきました。しかし、医学的な議論は必ずしも一致していません。
「がん患者は糖質制限をしたほうがいい」という主張もあれば、「効果は不明で、むしろ危険を伴う可能性がある」という声もあります。
その背景には、臨床試験データの少なさという現実があります。
理論は語れても、実際の患者さんでどのような結果が得られるのか――これは、科学が慎重に積み重ねていくべき領域です。

こうした中、2020年に国際栄養学誌 Nutrients に興味深い研究が掲載されました。
大阪大学が行った、新しいケトン食を取り入れたステージ4がん患者55名を対象とした臨床研究です。
研究に参加した患者さんは、さまざまな種類のがんを抱えながらも、抗がん剤、放射線治療、手術などを受けつつ、3か月間にわたり新しいケトン食を継続しました。
この「新しいケトン食」が特徴的なのは、その現実的で続けやすい工夫にあります。
従来のケトン食はあまりにも厳格で、生活の質を損なってしまうケースもありました。
しかし、この研究では「最初は厳しく、徐々に緩める」という方法をとることで、継続の壁を下げる工夫が凝らされています。

研究の結果、以下のような事実が報告されました。
また、栄養状態を示すアルブミンが高く、炎症を示すCRPが低い人は、生存期間が延びる傾向にあることも示されました。
もちろん、この結果が「ケトン食だけの力」ではないことは研究者自身も強調しています。
抗がん剤や放射線、手術…複数の治療が組み合わさっているからこその結果です。
しかし、それでもなお――
ステージ4という厳しい現実の中で、食事療法が「支え」となり得る可能性を示した、貴重なデータである
と胸に刻みたくなる研究です。

がん治療は、患者一人ひとりの物語です。
同じがん種でも、同じ治療法でも、歩む道は決して同じではありません。
今回の研究が示したのは、
「食事が治療を支える一つの柱となるかもしれない」という“可能性”
そして
「続けやすい形に整えれば、患者の生活を損なわずに取り組む余地がある」という希望
です。
医学の世界では、ひとつの研究だけで結論が出ることはありません。
今後、より大規模で厳密な研究が進むことで、ケトン食の真価はさらに明らかになるでしょう。
しかし、今日のあなたが「何か一歩を踏み出したい」と願うのなら、
その思いは確かに未来につながっています。
がんと向き合う日々は、時に孤独で、暗闇の中を歩くように感じられるかもしれません。
しかし、科学は今日もあなたのために進み続けています。
そして、あなた自身の歩む一歩一歩も、決して無駄ではありません。
食事、生活、治療――
そのすべてが、あなたを未来へと運ぶ力になります。
まずは、担当医や専門家と相談しながら、あなたの体に合った方法を探してみてください。
そこには、あなた自身の力を取り戻すきっかけが、そっと息づいているかもしれません。
どうか、希望を手放さずに。
あなたの未来には、まだ無数の光が待っています。