がん患者の発熱の原因:発熱性好中球減少(FN)から腫瘍熱まで

がん患者に見られる発熱の原因

がん患者さんにとって「発熱」は、非常に身近でありながら、時に重篤な状態につながることもある重要なサインです。なかには心配のいらない軽い発熱もありますが、原因によっては早急な対応が必要になる場合もあります。今回は、がん患者さんに見られる発熱の主な原因と、その特徴、注意すべきポイントについてわかりやすく解説します。

■ 一般的な方にもよく見られる 発熱の原因

■ 一般的な方にもよく見られる 発熱の原因

1. 上気道感染症(いわゆる「かぜ」)

発熱の原因として最も多いのが、一般の人にもよく見られる「かぜ」です。
上気道感染症では、発熱のほかにも以下のような症状がみられます。

  • 鼻水
  • のどの痛み
  • 頭痛

がん患者さんは治療の影響で免疫力が低下していることが多く、通常のかぜでも重症化して肺炎につながることがあります。特に高齢の方や体力が落ちている方は注意が必要です。

症状が長引く場合、食事がとれないほどつらい場合、呼吸が苦しい場合などは、できるだけ早く受診をしてください。また、現在では新型コロナウイルスの可能性も常に考慮する必要があり、医師の判断によってPCR検査が行われることもあります。

2. 感染性腸炎

下痢や嘔吐、腹痛、腹部の張りなどを伴う感染性腸炎も、発熱の原因としてよく見られます。こちらも一般の人にも起こる病気ですが、脱水になると全身状態が急速に悪化しやすいため注意が必要です。

高熱が続くときや、下痢・嘔吐で水分を摂れない場合は、早めの受診が大切です。がん患者さんは体力が低下しやすいため、「様子を見る」ことで重症化することがあります。こまめな水分補給を心がけてください。

■ がん患者さん特有の 発熱の原因

■ がん患者さん特有の 発熱の原因

3. 発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia:FN)

抗がん剤治療を受けている患者さんに特に注意が必要なのが、この「発熱性好中球減少症(FN)」です。

抗がん剤には骨髄の働きを抑える「骨髄抑制」という副作用があります。骨髄抑制が起こると、

  • 赤血球
  • 白血球(特に好中球)
  • 血小板

といった血液細胞が減少します。

好中球は白血球の60~70%を占め、体を感染症から守る重要な細胞です。この好中球がある一定の値以下に減ると、身体を守る力が低下し、感染症のリスクが一気に高まります。

【主な症状】

  • 37.5℃以上の発熱
  • 悪寒、寒気
  • 震え
  • 頭痛
  • 関節痛

特に、抗がん剤治療開始後 7~14日目頃 に発症しやすいと知られています。

FN は重症化すると命の危険があるため、発熱がみられた場合には すぐに主治医や治療中の医療機関に連絡 してください。採血検査や抗菌薬治療が早急に必要になることがあります。

4. 胆管炎・肝膿瘍

胆管にステント(細い管)が入っている患者さん、または膵頭十二指腸切除術などで胆管と腸をつなぐ手術を受けた患者さんに見られやすいのが「胆管炎」です。

胆汁の流れが悪くなると細菌が繁殖し、炎症が起こり発熱につながります。
症状としては、

  • 右上腹部の痛み
  • 高熱
  • だるさ

などが挙げられます。血液検査では肝機能の異常がみられることも多く、放置すると炎症が肝臓に広がって 肝膿瘍(肝臓の中に膿がたまる状態) を引き起こすことがあります。

胆管ステントが入っている方や過去に胆道系の手術歴がある方は、発熱を特に慎重に判断する必要があります。

5. 肺炎(誤嚥性肺炎を含む)

肺がん患者さんのほか、胃や腸の手術後の患者さんでは、誤嚥(食べ物や胃液が気管に入ること)が原因で肺炎を起こすことがあります。

肺炎では、次のような症状が出ることが一般的です。

  • 息苦しさ
  • 胸の痛み
  • 38℃以上の発熱

誤嚥は気づかないうちに起きている場合もあります。食事中にむせやすい方、飲み込みにくさを感じる方は特に注意が必要です。

6. カテーテル感染(CVポート感染)

点滴や薬剤投与のために、皮下に中心静脈ポート(CVポート)やカテーテルを埋め込んでいる患者さんでは、これらが感染の入り口となり発熱を起こすことがあります。

【サインとしてよくみられる症状】

  • ポート周囲の赤み
  • 触れると痛い
  • 腫れ
  • 持続する高熱

カテーテル感染は抗菌薬治療やカテーテルの交換が必要になるため、「なんとなく赤い」「ちょっと痛い」程度でも、主治医に早めに相談してください。

7. 腫瘍熱(しゅようねつ)

がん自体が炎症を引き起こし、その過程で産生される炎症性サイトカインが原因で発熱することがあります。これが「腫瘍熱」です。

特徴としては、

  • 比較的進行した大きながんで起こりやすい
  • 血液のがん(白血病・悪性リンパ腫など)でもみられる
  • 感染症の兆候がない
  • 微熱が続くことも多い

腫瘍熱は解熱剤で一時的に下がっても再び発熱することがあります。感染症との区別が難しいため、自己判断せず医師の診察が必要です。

8. 原因不明の発熱

がん患者さんでは、血液検査や画像検査を行っても明確な原因が見つからない「原因不明の発熱(FUO:不明熱)」がみられることもあります。

多くの場合は微熱が数日続く程度ですが、感染症や治療副作用を見逃さないためにも診察が必要です。ときに解熱剤や安静で経過を見ることになります。

■ 発熱があったときに大切なこと

■ 発熱があったときに大切なこと

がん患者さんの発熱には、緊急性が高いケースが含まれているため、「様子見」で済ませないことが重要です。

● 以下の場合はすぐに連絡・受診を

  • 37.5℃以上の発熱が続く
  • 悪寒や震えが強い
  • 息苦しい、咳が強い
  • 下痢・嘔吐で水分が摂れない
  • カテーテルやポートの周囲が赤い、痛い
  • 抗がん剤治療中である(特に治療後1~2週間)

早期に治療を開始することで、重症化を防げるケースは多くあります。

■ まとめ

がん患者さんの発熱は、その背景に一般的な感染症から重篤な合併症まで、実にさまざまな原因が隠れています。特に、抗がん剤治療中や胆道系・消化管の手術歴のある方、カテーテルを使用している方は、発熱が重大なサインである可能性があります。

「熱があるけれど少し様子を見よう」
という自己判断は非常に危険です。

発熱が見られた場合には、できるだけ早めに主治医や医療機関へ相談し、必要な対応を受けるようにしましょう。気になる症状がある場合は、遠慮なく医療者に相談し、安全に治療を続けられるよう心掛けてください。