抗がん剤の副作用「脱毛」を予防する頭皮冷却装置とは?

抗がん剤の副作用「脱毛」を予防する頭皮冷却装置とは?

抗がん剤による脱毛を予防する「頭皮冷却装置」とは?

抗がん剤による脱毛を予防する「頭皮冷却装置」とは?

抗がん剤治療を受ける多くの方にとって、治療中の脱毛は避けたい副作用の一つです。脱毛そのものは命に関わる症状ではありませんが、外見の変化は精神的な負担が大きく、生活の質(QOL)を大きく損なう場合があります。特に乳がん患者さんでは、抗がん剤治療の副作用として高い頻度で脱毛がみられるため、治療選択においても重要な要素として捉えられてきました。

抗がん剤による脱毛は、抗がん剤が激しく細胞分裂を行う細胞に強く影響するという性質によります髪の毛を生み出す毛母細胞もまた分裂が非常に活発であるため、抗がん剤の影響を受けやすく、治療開始から2〜3週間ほどで脱毛が始まることが一般的です。治療終了後は3〜6か月で再び髪が生えてくることが多いものの、薬の種類や体質によっては毛根が深いダメージを受け、永久的な脱毛に至るケースも一部では報告されています。

こうした背景から、以前より「頭皮を冷却することで脱毛を軽減できないか」という取り組みが世界中で進められてきました。頭皮を冷やすことで血管が収縮し、抗がん剤が頭皮に届きにくくなるという理論に基づくものです。2020年前後には多くの臨床研究が報告され、頭皮冷却装置(Scalp Cooling System)は実用的な選択肢として注目され始めました。そして2025年の現在、国内外での利用はさらに広がっており、脱毛をできる限り避けたい患者さんにとって重要な治療支援技術の一つとなっています。

■ アメリカで進んだ頭皮冷却装置の臨床研究

頭皮冷却装置の有効性を示す代表的なデータとして、米国で行われた乳がん患者を対象にした臨床試験があります。術前の抗がん剤治療を受ける早期乳がん患者122人を対象とし、106人を頭皮冷却群、16人をコントロール群に割り付けました。

頭皮冷却群では、抗がん剤投与の30分前から冷却を開始し、投与中および投与後90〜120分間、頭皮を約3℃に保つ処置を行いました。そして治療開始4週間後に「ディーンスコア」という客観的な評価方法を用いて脱毛の程度を評価し、スコア0〜2(脱毛50%以下)を“脱毛予防の成功”と定義しました。

結果は以下の通りです。

  • 頭皮冷却群:101人中67人(66%)で脱毛50%以下
  • コントロール群:明確な予防効果は認めず

この試験では、特に脱毛しやすいとされる「ドセタキセル+シクロフォスファミド」併用療法を受けた患者でも、1か月時点で脱毛25%以下にとどまった例が確認されており、従来の “抗がん剤なら必ず脱毛する” という常識を覆す結果となりました。

さらに複数の国で行われた臨床試験データを統合した解析では、頭皮冷却によって約43%の患者で脱毛を軽減できたと報告されています。装置や治療スケジュールによって多少の差はありますが、概ね4~6割の患者で効果が期待できると考えられています。

■ FDA承認、そして世界での普及

■ FDA承認、そして世界での普及

これらの科学的な根拠を受けて、2015年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が頭皮冷却装置「ディグニキャップ(DigniCap)」を乳がん患者向けに承認しました。さらに2017年には乳がん以外の固形がんへも適応が拡大され、現在では肺がん、大腸がん、胃がんなど多くのがん種で使用されています。

アメリカでは2020年代を通して普及が進み、抗がん剤治療を行う医療機関の多くで選択可能なサポートとして定着しています。頭皮冷却は “治療そのものの効果を妨げない” という点も重要で、安全性についても継続的に確認されています。

■ 日本でも導入が進む──国産装置「セルガード」の登場

日本では長らく頭皮冷却装置の導入が遅れていましたが、2020年になってようやく大きな動きがありました。同年、リーブ21が国産初の頭皮冷却装置「セルガード」を開発し、製造・販売を開始したのです。当時は抗がん剤治療を行うがん診療連携拠点病院を中心に販売が予定されており、目標台数は2000台以上と発表されました。

その後2020〜2025年の数年間で国内でも装置の導入が広まり、乳がん治療の現場では“脱毛を避けたい方が選べる選択肢”として認知されるようになってきました。2025年現在でも、導入状況は医療機関によって異なるものの、頭皮冷却を希望される患者さんは以前より確実に増えています。

■ 頭皮冷却のメリットと注意点

頭皮冷却は、脱毛を完全に防げるわけではありません。しかし、外見の変化を最小限に抑えることができる患者さんが増えるという点で、大きな心理的サポートになります。

一方で注意点もあります。

  • 治療時間が長くなる(投与前後で冷却が必要)
  • 冷たさによる不快感や頭痛を感じる場合がある
  • すべての抗がん剤で効果が期待できるわけではない
  • 自費対応の施設では費用負担が大きくなる場合がある

これらを理解した上で、効果や費用、体への負担などを医療者と相談しながら選択することが大切です。

■ まとめ──脱毛に対する選択肢は確実に増えた

■ まとめ──脱毛に対する選択肢は確実に増えた

かつて抗がん剤の副作用として “避けられない” とされていた脱毛ですが、頭皮冷却装置の普及により、今では少なからず対策が可能になっています。特に乳がん患者さんを中心に、外見の変化を抑えられることは精神的な支えとなり、治療への意欲向上にもつながります。

2025年現在も研究は続いており、より効果的で快適な装置の開発が進められています。治療のつらさを少しでも軽減し、患者さんが前向きに治療へ臨めるよう、医療技術は確実に進化し続けています。