膵臓は体内で重要な役割を担う臓器で、食べ物の消化を助ける消化酵素を分泌する外分泌機能と、血糖値を調節するホルモン(インスリンやグルカゴン)を分泌する内分泌機能を持っています。解剖学的に膵頭部、膵体部、膵尾部の3つに分けられ、それぞれが特定の役割を担っています。
膵体尾部切除術(distal pancreatectomy)は、主に膵尾部に発生した腫瘍やがんを取り除くために行われる手術です。この手術では膵尾部と隣接する脾臓を摘出することが一般的です。腫瘍の完全除去によるがんの進行抑制と症状の緩和を目的として行われます。
本記事では、膵体尾部切除術の術式や合併症、術後の看護について詳しく解説します。

膵体尾部切除術は膵尾部に加え、周辺の脾臓やリンパ節、脂肪組織も摘出する手術です。この手術は再建操作が不要であるため、膵頭十二指腸切除術(通称:膵頭部切除術)と比較すると技術的負担が少なく、合併症リスクも低いとされています。
※多くの場合、膵尾部に隣接する脾臓も一緒に摘出されます。脾臓は不要な赤血球の除去や細菌に対する免疫機能を担う臓器ですが、摘出されても生存に大きな支障はありません。脾臓の役割は肝臓など他の臓器が補うため、術後も基本的な体の機能は維持されます。ただし、脾臓摘出によって一部の感染症リスクが上昇するため、適切な予防策が必要です。
※施設によっては、おなかを大きく開くのではなくて、小さな穴をいくつか空け、そこから機械を挿入しながら手術をする腹腔鏡下手術も実施されています。手術後の痛みが少なく、傷跡も大きく残りません。しかし、すべての方に実施できるわけではありません。
膵体尾部切除術は比較的安全性が高い手術とされていますが、以下のような合併症のリスクがあります。
膵臓の断面部から膵液が漏れ出る合併症です。膵液には強い消化酵素が含まれており、漏れ出すことで周囲の組織を傷つけ、腹腔内膿瘍や動脈瘤の形成、さらには腹腔内出血を引き起こす可能性があります。
<観察ポイント>
• ドレーン排液の色や量:膵液漏が発生すると排液がワインレッド色になることがあります。
• 腹部症状:腹痛、発熱、鼓腸などが見られた場合は早急な対応が必要です。
• バイタルサイン:頻脈や血圧低下がみられる場合も注意が必要です。
膵臓の一部を切除することで、内分泌機能が低下し、血糖値の調節が難しくなることがあります。その結果、高血糖や糖尿病のリスクが高まります。高血糖が続くと好中球の機能が低下し、創傷治癒が遅れるほか、感染症リスクが上昇します。
<看護のポイント>
• 血糖測定を頻回に行い、必要に応じてインスリンを投与します。
• 栄養士と連携して適切な食事指導を行います。
脾臓摘出により、特定の感染症(肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザウイルスなど)のリスクが高まります。
<予防策>
• ワクチン接種:術後に肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種を推奨します。
• 感染予防行動:マスクの着用や手指衛生の徹底を患者さんに指導します。

膵体尾部切除術後の患者さんのケアでは、合併症の予防と早期発見が重要です。以下の点を重点的に観察し、適切な対応を行いましょう。
血圧、心拍数、体温を定期的に測定し、異常の早期発見に努めます。特に膵液漏や感染症の兆候には注意が必要です。
• ドレーン排液の色、量、性状を細かく記録します。
• 異常があれば迅速に医師に報告します。
• 血糖値の測定を適切に行い、必要に応じてインスリンを調整します。
• 栄養バランスの取れた食事を指導し、生活習慣の改善を支援します。
• 創部の清潔を保つために適切な創部ケアを行います。
• 予防接種や感染症対策について患者さんや家族に説明し、実行を促します。
患者さんが退院後も安心して生活できるように、以下のポイントを指導します。
• 血糖管理の重要性と食事療法の継続。
• 感染症予防策の徹底(手洗い、マスク着用、ワクチン接種)。
• 術後の体調変化があれば早めに医療機関を受診するように説明します。
膵体尾部切除術は膵尾部を対象とした治療法で、比較的安全性が高いとされていますが、膵液漏や血糖値異常、感染症リスクなどの合併症が生じる可能性があります。
• 脾臓を摘出しても生存には支障はありませんが、感染症予防が重要です。
• 看護師としては、ドレーン管理やバイタルサインの観察、血糖値の測定など、術後管理を丁寧に行う必要があります。
• 退院後の生活指導を通じて患者さんが安心して日常生活を送れるようサポートしましょう。
膵体尾部切除術は患者さんの健康回復の重要なステップです。適切な看護ケアを提供し、患者さんが安心して治療に臨める環境を整えましょう。