オーバードーズ(OD)は、薬を過剰に摂取することで起こる薬物中毒を指します。特に精神的に不安定な状態にある人が、自らの苦痛を和らげたい、あるいは希死念慮(死にたいという強い思い)から大量服薬に至るケースが多いとされています。
使用される薬剤は睡眠薬や風邪薬、解熱剤が多いですが、中には農薬や漂白剤などの化学薬品が使用されることもあります。
この記事では、オーバードーズによる薬物中毒に対する治療、初期対応、そして注意すべき合併症について詳しく解説します。
過剰摂取した薬剤の種類や量によって、中毒症状は軽度から重度まで多岐にわたります。代表的な薬物中毒の症状は以下のとおりです。
| 交感神経作用 | 抗コリン | コリン | オピオイド | 鎮静薬 | |
| 代表薬剤 | アンフェタミン | 抗ヒスタミン薬 | 有機リン | バルビツール | |
| 中枢神経 | 興奮、せん妄、痙攣 | せん妄、昏睡、痙攣 | 昏睡 | 多幸感、傾眠、昏睡 | 傾眠、昏睡 |
| 脈拍 | 上昇 | 上昇 | 低下 | 低下 | - |
| 血圧 | 上昇 | 上昇 | - | 低下 | 低下 |
| 体温 | 上昇 | 上昇 | - | 低下 | 低下 |
| 呼吸 | - | - | 過多 | 抑制 | 抑制 |
| 瞳孔 | 散大、対光反射、迅速 | 散大、対光反射、遅延 | 縮瞳 | 縮瞳 | - |
| 腸蠕動 | - | - | 低下 | 上昇 | - |
| 皮膚 | 発汗 | 乾燥 | 発汗 | - | - |
| その他 | - | - | 嘔吐、涙、唾液過多 | - | - |

オーバードーズ患者の吐物や排泄物から有毒物質が放出されることがあります。そのため、フェイスシールド、マスク、ガウン、手袋を着用し、医療スタッフ自身の安全を確保します。
患者が搬送されたら、以下の点を重点的に観察し、適宜対応します。
• 気道:気道確保、吸引。
• 呼吸:酸素投与、呼吸管理。
• 循環:輸液による血圧維持。
• 意識:CTや髄液検査で脳の状態を評価。
• 体温:異常があれば保温や冷却を実施。
薬剤に応じた拮抗薬が存在する場合は、速やかに投与します。例えば、オピオイド系薬剤の過剰摂取には「ナロキソン」、ベンゾジアゼピン系薬剤には「フルマゼニル」が用いられます。
患者の尿を検査して服用した一定の薬剤(※)を特定するトライエージ検査も利用されますが、偽陽性のリスクがあるため慎重に評価します。
※一定の薬剤とは、フェンサイクリジン:PCP、ベンゾジアゼピン系:BZO、コカイン類:COC、アンフェタミン類:AMP、大麻類:THC、オピオイド:OPI、バルビツール酸:BAR、三環系抗うつ薬:TCAなどです。
活性炭は薬物を吸着して腸管での吸収を抑え、便として排出させます。通常50~100gの活性炭を白湯で溶かし、18Fr以上の胃管を使用して胃内に投与します。腸閉塞のリスクもあるので、緩下剤も同時に投与します。
ただし、次の場合は禁忌です。
• 意識障害で気道確保が困難な場合(活性炭溶液は粘性が強く、詰まる恐れがある)。
• 酸・アルカリなど腐食性物質や石油製品を摂取している場合。
胃洗浄は薬剤摂取後1時間以内に行うことで有効性が高いですが、適応には注意が必要です。急性中毒の予後を改善するというエビデンスはないともいわれています。
以下の場合、胃洗浄は禁忌となります。
• 意識障害があり誤嚥のリスクが高い場合。
• 石油製品や腐食性物質を摂取した場合。
※また、胃洗浄は侵襲的で合併症のリスクも高いため、慎重に判断されます。
• 活性炭の反復投与:薬物の吸着と排出を促進。
• 尿のアルカリ化:薬物の代謝を促進。
• 血液透析:血液中の薬物を直接除去する。
意識障害による吐物の誤嚥や、活性炭投与・胃洗浄が原因となることがあります。呼吸状態をモニタリングし、必要に応じて抗生剤治療を行います。
• 高体温:アンフェタミンや抗コリン薬による副交感神経抑制が原因。
• 低体温:アルコールや抗精神病薬による代謝低下が原因。
※体温管理として、膀胱温の測定やクーリング、室温調整が必要です。
長時間同じ体位で倒れていることで血流障害が起こり、筋組織の壊死が進行します。感染症や腎機能障害に注意して早期対応が求められます。
オーバードーズの背景には、精神疾患や強いストレスが存在することが少なくありません。
一命を取り留めた後も、再発を防ぐために精神科や心理士などの専門家との連携が重要です。
患者や家族への寄り添い、継続的なサポートが必要不可欠です。

• オーバードーズは、薬剤過剰摂取による中毒症状を引き起こす危険な状態。
• 初期治療では、全身状態の安定化、吸収阻害、薬物排出促進が中心。
• 三大合併症(誤嚥性肺炎、異常体温、非外傷性挫滅症候群)への注意が必要。
• 精神的な背景を理解し、心のケアを含めた多職種連携が重要。
オーバードーズ患者に適切に対応するためには、知識と冷静な判断が求められます。
医療者として患者の命と心を守るために、一層の努力が必要です。