腹部大動脈瘤(AAA: Abdominal Aortic Aneurysm) は、大動脈が通常の直径20mm程度から30mm以上に拡大してできた瘤を指します。
この疾患は特に腎動脈分岐部で発生しやすく、破裂すると大量出血を引き起こし、ショック状態に陥る危険性があります。破裂時の死亡率は約50%とされており、早期診断と治療が生命を守るために重要です。
治療法には大きく分けて 人工血管置換術 と ステントグラフト内挿術(EVAR) の2種類があります。
以下では、患者の負担が少ない EVAR に焦点を当て、その手法や術後の看護、発生し得る合併症について詳しく解説します。
EVAR(ステントグラフト内挿術) とは、カテーテルを用いて動脈瘤内に人工血管(ステントグラフト)を挿入し、血液の流れを制御することで、動脈瘤の破裂を予防する治療法です。
従来の人工血管置換術(全身麻酔をかけて、開腹し、動脈瘤の部分を切り取って人工血管をつなぎ合わせる手術) に比べ、患者の体への負担が少なく、回復が早いという利点があります。
1.カテーテル挿入
鼠径部の血管(大腿動脈)からカテーテル(内部にステントグラフトが折りたたんで収納されています)を挿入し、大動脈瘤の位置まで進めます。
2.ステントグラフトの展開
動脈瘤内にカテーテルを進めた後、ステントグラフトを展開、ランディングゾーンと呼ばれる動脈瘤の中枢側と抹消側にある正常な血管部分を探して密着させます。動脈瘤内への血流を遮断します(図参照)。

3.血流制御
ステントグラフトにより動脈瘤内への血流が遮断されると、動脈瘤の内圧が低下。時間とともに動脈瘤内は血栓化し、破裂リスクが軽減されます。
• 低侵襲手術:開腹を必要とせず、局所麻酔や全身麻酔で行える。
• 高齢者や全身麻酔困難な患者にも適用可能:心不全や脳卒中の既往があっても治療が可能な場合が多い。
• 早期退院が可能:術後の回復が早く、数日で退院できることもある。
• 適応症例が限られる:
血管の解剖学的な形状や状態によって適用できない場合がある。特にランディングゾーンが十分に確保できない場合は困難。
• 術後の経過観察が必須:
術後もステントグラフトのズレや血流漏れ(エンドリーク)を防ぐため、定期的なフォローアップが必要。
出血はカテーテル挿入中のトラブルや穿刺部の止血不良によって発生することがあります。後腹膜血腫や皮下出血に進行する場合もあり、早期発見が重要です。
• 穿刺部の観察:腫れ、発赤、血腫などの兆候がないかを確認。
• バイタルサインの監視:血圧の低下や頻脈、尿量の減少、冷や汗などが見られた場合は医師に速やかに報告。
エンドリークは、ステントグラフトの密着不良や破損により動脈瘤内に血液が再び流入する状態を指します。(図参照)
• TypeⅠ: ステントグラフトとランディングゾーンの隙間から動脈の中へ血液がリークしてしまうタイプ。原因としてはランディングゾーンの長さ不足、血管の屈曲、血管内壁の石灰化が考えられます(最もリスクが高い)。
• TypeⅡ: ステントグラフト挿入によって、動脈瘤内の圧力が低下し、分岐血管から動脈瘤内に血液が流れている状態です。自然経過の側面もあり、様子見になることも多いです。術中、術後に多いです(自然消失する場合が多い)。
• TypeⅢ: ステントの破損や接合部からの血流漏れ。
• TypeⅣ: ステントの繊維隙間からのにじみ出る血液。自然消失していくことが多いので、動脈瘤に負担がかかることは少ないです。


• TypeⅠとTypeⅢに特に注意しましょう。この2つは漏れ出る血液の圧力が強く、動脈瘤に負担がかかり破裂するリスクが高くなるからです。状況に応じて再手術の可能性もあります。患者さんのバイタルサインや腹部症状の変化を観察しましょう。
※TypeⅡやTypeⅣは自然消失することあるため、経過観察とすることが多いです。ただし、TypeⅡの場合、長期化すると動脈瘤に負担がかかる可能性もあり、場合によってはコイル塞栓術などの追加の治療が必要となることもあります。
• エンドリークはステントグラフトの圧着不良やステントグラフトの移動や落ち込み、加齢に伴う大動脈の短縮や蛇行などが原因で起こります。そのため、医師の指示の下、定期的に通院が必要となります。患者さんに外来受診の重要性を説明します。
ステントグラフトが移動して他の血管を塞ぐ現象です。腎動脈や上腸間膜動脈が影響を受けると、腎機能障害や腸管壊死など重篤な状態に陥る可能性があります。
EVARは患者さんに優しい低侵襲手術でありながら、術後の合併症や経過観察の重要性が伴います。
看護師は、術後の早期発見と対応を通じて患者の安全を確保し、長期的なフォローアップの重要性を伝える役割を果たします。
患者さんとご家族が安心して治療を受けられるよう、適切なケアと指導を提供していきましょう。