骨盤は上半身を支える基盤であると同時に、腎臓や膀胱、尿管、血管、子宮といった重要な臓器を守る役割も果たしています。骨盤は1つの骨ではなく、中央上部の仙骨、中央下部の尾骨、左右に広がる寛骨の3つの骨が組み合わさり、さらに寛骨は上から順に腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨で構成されています。これらの骨が仙腸関節や恥骨結合でつながることで骨盤全体が形成されています。
交通事故や転倒など、強い外力が骨盤に加わると骨折が生じることがあります。骨盤骨折には大きく分けて安定型骨盤骨折と不安定型骨盤骨折の2種類があります。本記事では、特に重篤な合併症を伴いやすい不安定型骨盤骨折について解説します。

1.安定型骨盤骨折
骨盤の一部のみが骨折している状態で、骨の連続性が保たれています。
• 代表例:仙骨骨折、腸骨翼骨折、坐骨骨折
• 特徴:緊急性が低く、主に疼痛緩和や対症療法が中心となる場合が多い。
2.不安定型骨盤骨折
骨盤を形成する複数の骨が骨折し、仙腸関節や恥骨結合部がずれ、骨盤全体が不安定になっている状態です。
• 代表例:腸骨垂直骨折、両側恥坐骨骨折、恥骨結合離開
• 特徴:骨折部分がずれやすく、臓器損傷や大量出血のリスクが高い。
不安定型骨盤骨折では、以下のような症状が認められます。
1.骨折そのものに伴う症状
• 鼠径部痛や腰痛:骨折部分の痛み。
• 下肢長差:左右の脚の長さが異なる。
• 頻脈やショック症状:大量出血による循環不全。
2.臓器損傷による症状
• 膀胱・尿道損傷:血尿、陰嚢や会陰部の血腫、無尿。
• 腸管損傷:下血、腹痛、腹膜刺激症状(受傷後数日以内に発症)。
※骨盤が折れた際に骨が臓器を傷つけてしまいます。
3.大量出血によるリスク
骨盤骨折では、腸骨静脈や仙腸関節周囲の静脈を損傷することで、大量出血を起こすことがあります。そして、出血性ショックに陥る可能性が非常に高いです。骨折部位や範囲によっては2~4リットルもの出血を来す場合があります。体重60kgの成人で血液量は約4.6リットルで、出血で1リットル以上の血液を失うと生命に危機を及ぼすといわれています。
骨盤骨折の患者さんが搬送された際には、迅速で適切な初期対応が重要です。特に輸液、止血、骨盤固定、感染予防の4点を意識してケアを行いましょう。
大量出血が見られる場合は輸液や血液製剤の投与が必要です。また、出血部位を特定するために造影CTが行われます。そのため、バイタルサインの観察や末梢ルートの確保を速やかに行いましょう。
経カテーテル動脈塞栓術(TAE)
造影検査で活動性出血が認められた場合、止血目的で実施されることがあります。これに向けた準備として、アレルギー歴や最終食事時間の確認、検査の同意書の取得なども看護師の重要な役割です。
骨盤骨折では尿道損傷のリスクがあるため、カテーテル挿入は慎重に行う必要があります。特に、血尿や陰嚢・会陰部の血腫が見られる場合は、画像検査で尿道損傷の有無を確認してから挿入します。必要に応じて泌尿器科にコンサルトし、膀胱瘻造設を検討する場合もあります。
骨盤の動揺を防ぎ、さらなる損傷や出血を防ぐために骨盤の固定を行います。
• サムスリング:骨盤を外周から圧迫する装具。
• シーツラッピング:簡易的な方法で、骨盤をシーツで包み圧迫固定します。
• 内旋位固定:両膝を内股の位置で固定する方法。これにより骨盤の容量を減らし、出血抑止効果を得られます。
体外から骨盤を仮固定する方法で、受傷直後の止血や全身状態の安定化を目的に行われます。その後、全身状態が安定すれば、内固定術による骨盤の整復が行われます。
骨折部位が開放している場合(開放骨折)は、感染症のリスクが高まります。
• 傷口を洗浄し、抗生剤や破傷風トキソイドなどの投与が必要です。
• 血液検査や画像検査で感染徴候がないか注意深く観察しましょう。

治療後は、患者さんの全身状態や骨折部位の回復状況を観察し、合併症の早期発見に努めます。
• NRS(Numerical Rating Scale)などを用いて疼痛を評価し、適切な鎮痛薬を投与します。
• 長期の安静が必要な場合、圧迫による褥瘡の発生にも注意しましょう。
骨盤骨折は、患者さんのADL(Activities of Daily Living)やQOL(Quality of Life)に大きな影響を及ぼします。
• トイレや入浴などの日常生活動作において、必要なサポートを提供します。
• 車いすや歩行器などの福祉用具の活用を検討することも重要です。
骨盤骨折による痛みや生活の制限は、患者さんに大きな精神的ストレスを与えることがあります。患者さんの不安や困りごとに耳を傾け、必要に応じて心理的な支援を行いましょう。
• 骨盤骨折には安定型と不安定型があり、特に不安定型は臓器損傷や大量出血のリスクが高い。
• 急性期では、輸液、止血、骨盤固定、感染予防を意識した迅速な対応が求められる。
• 治療後は合併症の早期発見や、疼痛管理、日常生活動作の支援を行い、患者さんの回復をサポートする。
骨盤骨折は全身に影響を及ぼす可能性のある重篤な傷病です。患者さん一人ひとりに寄り添い、適切な看護ケアを提供することが重要です。