生体侵襲とは?術後看護や生体侵襲・反応について

 生体侵襲とは、生体の内部環境を乱す可能性のある外部からの刺激を指します。これには、擦り傷や手術、交通事故といった物理的な外傷だけでなく、感染症、薬剤、さらには精神的な不安や恐怖など、幅広い要因が含まれます。

 これらの侵襲に対し、生体は内部環境を維持・回復しようと反応を起こします。この反応を「生体反応」と呼びます。生体反応には主に免疫系自律神経・内分泌系が関与しています。侵襲が小さい場合、生体反応は局所的に発生し、体を正常な状態に戻すために機能します。

 しかし、侵襲が大きすぎたり、生体反応が過剰に起こったりすると、かえって病状を悪化させる可能性があります。そのため、医療者は患者の状態を適切にアセスメントし、適切なケアや治療を提供する必要があります。

 この記事では、特に免疫系の働きに焦点を当て、生体反応と看護のポイントを解説します。


免疫系が果たす役割と生体反応

 生体侵襲が加わると、免疫系が働き始めます。例えば、細菌が体内に侵入した場合、以下のような反応が起こります。

1.マクロファージの貪食作用
 細菌に反応する最初の免疫細胞はマクロファージです。マクロファージは細菌を「貪食(食べる)」し、炎症性サイトカインを放出します。サイトカインは細胞間で情報を伝達する物質で、炎症反応を誘導します。特にTNF-αやインターロイキン(IL-1やIL-6)は炎症を促進する重要な役割を果たします。

2.炎症メディエーターの放出
 細菌の侵入により、体内の肥満細胞(マスト細胞)からヒスタミンやロイトコリエンが放出されます。これにより、血管が拡張し(ヒスタミンの作用)、血管の透過性が亢進(ロイトコリエンの作用)します。この反応によって、血液中の白血球が感染部位に移動しやすくなります。

3.好中球と単球の活性化
 放出されたサイトカインやケモカイン(白血球を誘導する物質)により、好中球や単球が感染部位に集まり、細菌を排除します。好中球は細菌を攻撃し、単球はその残骸を処理する役割を果たします。


生体反応による症状

免疫系の働きによって生じる炎症反応は、体に次のような変化を引き起こします。

1.腫脹と疼痛
 血管透過性が亢進することで血漿成分が漏れ出し、組織に水分がたまります。その結果、腫れや痛みが生じます。プロスタグランジンやブラジキニンといった物質が痛みを誘発します。

2.発赤と熱感
 血管拡張によって血流が増加し、炎症部位が赤くなります。同時に熱感も伴います。

3.全身への波及
 小さな侵襲ではこれらの反応は局所にとどまりますが、大きな侵襲では全身に広がることがあります。この全身的な炎症反応を全身性炎症反応症候群(SIRS:サーズ)と呼びます。


全身性炎症反応症候群(SIRS)と診断基準

 SIRSは全身に炎症反応が広がった状態を指します。診断基準は以下の4項目のうち2項目以上を満たす場合に疑われます。

 • 体温:38℃以上または36℃以下
 • 脈拍数:90回/分以上
 • 呼吸数:20回/分以上またはPaCO2が32Torr以下
 • 白血球数:12,000/μL以上または4,000/μL以下、未熟顆粒球が10%以上


SIRSが引き起こす問題

SIRSの進行により、以下のような危険な状態が発生します。

1.脱水と血圧低下
 血管透過性が全身で亢進するため、水分が血管外に漏れ出します。その結果、血管内の水分が不足し、血圧低下や頻脈が起こります。

2.腎機能障害
 血圧低下により腎臓への血流が減少し、尿量が減少(乏尿)します。これにより老廃物の排出が滞り、体内に毒素が蓄積します。

3.播種性血管内凝固症候群(DIC)
 SIRSが重症化すると、体中で過剰な血栓が形成され、重要な臓器の血流が遮断されます。これにより臓器障害が発生するだけでなく、血液凝固に必要な成分が枯渇し、出血傾向(易出血)を招きます。


看護師が行うべき観察とケア

大きな侵襲を受けた患者さんに対して、看護師は次のような観察やケアを行う必要があります。

1.循環動態の評価

 o 血圧、脈拍、呼吸数を定期的に確認する。
 o 尿量を測定し、腎機能の状態を把握する。
 o 中心静脈圧や下大静脈径を評価し、輸液量を調整する。


2.出血や血栓症状の確認

 o 血尿、下血、点状出血がないか観察する。
 o DICを疑う場合は血液データを確認し、早期に医師へ報告する。


3.ケアの侵襲を最小限に

 o 体位変換、吸引、清拭といった看護ケアも生体侵襲となる場合があるため、必要最小限に留める。
 o 愛護的にケアを実施し、患者の苦痛を軽減する。


適切な輸液管理の重要性

 侵襲による循環動態の変化に対し、輸液や昇圧剤が用いられます。しかし、以下の点に注意が必要です。
 • 過剰な昇圧剤の使用:末梢血管が収縮しすぎると、皮膚や腎臓への血流が減少します。
 • 不適切な輸液量:輸液過剰により、胸水や浮腫が悪化する可能性があります。

 そのため、患者さんの状態に応じたバランスの取れた輸液管理が求められます。


まとめ

 • 生体侵襲とは、外部からの刺激が生体の内部環境を乱すことを指し、免疫系や自律神経系が対応する。
 • 炎症反応によって腫脹、疼痛、熱感、発赤といった症状が生じる。
 • 大きな侵襲ではSIRSが発生し、全身的な炎症反応が問題となる。
 • 看護師は循環動態の変化、出血や血栓の有無、ケアによる侵襲などに注意を払いながら、適切な管理とサポートを提供する。

 患者さんの状態を細かく観察し、早期の異常発見と適切な対応を心掛けることが、看護師としての重要な役割です。