脊髄損傷は動けなくなるだけじゃない 脊髄損傷での看護について

脊髄は人間の体の中でも特に繊細な組織であり、脊椎(背骨)にしっかりと守られています。この脊髄は「中枢神経系」としての重要な役割を果たし、全身の末梢神経と脳をつなぐ橋渡しの役割をしています。例えば、暑さや寒さを感じたり、手足を思い通りに動かしたりすることができるのは、脊髄が正しく機能しているおかげです。しかし、脊髄が損傷すると、その機能が失われ、さまざまな障害が生じます。これが「脊髄損傷」と呼ばれる状態です。

本記事では、脊髄損傷の原因や症状、治療、さらには看護における重要なポイントについて詳しく解説していきます。

1. 脊髄損傷の原因

脊髄損傷の主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 交通事故(自動車・バイク)
  • スポーツ中の事故
  • 転倒・転落
  • その他の衝撃(尻もちや突発的な転倒など)

一般的に、脊髄損傷は大きな衝撃を伴う事故や怪我によって引き起こされることが多いです。しかし、実際には些細な事故でも脊髄に深刻なダメージを与えてしまうことがあります。例えば、高校生が友人の椅子を引いたいたずらが原因で、転倒し下半身不随になったという事故も報告されています。このように、脊髄はわずかな衝撃でも損傷する可能性があり、誰にとっても無関係ではない問題なのです。

2. 脊髄損傷の症状

脊髄損傷の症状は、損傷した部位によって異なります。脊髄は頚髄(C)、胸髄(T)、腰髄(L)、仙髄(S)に分けられており、それぞれの損傷レベルによって現れる症状も変わってきます。

損傷部位影響を受ける部位・症状
C2-C5横隔膜・四肢の麻痺(人工呼吸器が必要な場合も)
C5-C6脚・胴体・腕・肩の麻痺
C8-T1手指の運動麻痺
T2-T7肋間筋や背筋の麻痺
T8-T12腹筋・下部背筋群の麻痺
L1-L3股関節の内転運動障害
L4-S1大腿部・下腿部の麻痺
S1-S4直腸・膀胱機能の障害

また、脊髄損傷では「スパイナルショック(脊髄ショック)」と呼ばれる現象が発生します。これは、受傷直後から運動・知覚機能、脊髄反射が一時的に完全に消失する状態を指します。通常、スパイナルショックは24〜48時間ほど続き、その後、数日から数週間かけて回復することもあります。

3. 脊髄損傷による自律神経障害とその影響

脊髄損傷では、自律神経の働きにも影響が及ぶことがあります。特に問題となるのが、神経原性ショックです。

神経原性ショックのメカニズム

  1. 脊髄ショックが発生
  2. 交感神経の遮断により、末梢血管が拡張
  3. 末梢血管抵抗の低下
  4. 血圧低下(低血圧)
  5. 全身への酸素供給不足
  6. ショック状態の発生

通常、血圧が低下すると交感神経の働きで心拍数が上昇し、血圧を維持します。しかし、脊髄損傷では交感神経が遮断されてしまうため、血圧低下と徐脈が同時に発生し、循環不全を引き起こしてしまうのです。そのため、急性期の患者はバイタルサイン(血圧、脈拍など)の変動が激しく、綿密なモニタリングが求められます。

4. 脊髄損傷の治療

急性期の治療

  • ギプスや装具による脊椎の固定
  • 手術(脊椎固定術など)
  • 循環管理(神経原性ショックへの対応)

慢性期のリハビリ

  • 筋力トレーニング
  • 関節の可動域訓練
  • 排泄管理(カテーテル管理・自己導尿)
  • 自立生活支援(車椅子移動訓練など)

5. 脊髄損傷における合併症と予防策

脊髄損傷の患者は、長期にわたる安静や運動機能の低下により、さまざまな合併症が発生するリスクがあります。

主な合併症

  1. 深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症(PE)
    • 血流が滞り、血栓が発生
    • 予防策:弾性ストッキングの着用、フットポンプの使用
  2. 膀胱・直腸障害
    • 自律神経障害による排泄機能の低下
    • 予防策:膀胱留置カテーテルの管理、間欠的導尿
  3. 感染症(肺炎・尿路感染・褥瘡感染)
    • 人工呼吸器の使用や長時間の安静によりリスク増加
    • 予防策:呼吸リハビリの実施、こまめな体位変換
  4. 褥瘡(床ずれ)
    • 長時間同じ姿勢を続けることによる皮膚損傷
    • 予防策:体圧分散マットの使用、適切なスキンケア

6. まとめ

  • 脊髄は全身の感覚・運動を司る重要な神経であり、損傷するとさまざまな機能が失われる
  • 損傷部位によって異なる症状が現れ、重症の場合は呼吸器管理が必要になることもある
  • 脊髄ショックや神経原性ショックにより、血圧や心拍の管理が重要
  • 合併症のリスクが高いため、予防策を徹底することが必要

脊髄損傷の患者に対する看護は、急性期の生命維持管理から、慢性期のリハビリテーション、さらには生活の質(QOL)向上の支援まで幅広い対応が求められます。今後も適切なケアを提供し、患者さんの生活を支えるための知識を深めていくことが大切です。