徐々に慣らす

はじめに

私たちは日常生活の中で、苦手なことや不安を感じる場面に遭遇することがあります。例えば、人前で話すこと、満員電車に乗ること、新しい環境に飛び込むことなど、人それぞれ不安を感じる場面は異なります。このような状況に直面したとき、回避するのもひとつの選択肢ですが、常に避け続けることで生活の幅が狭くなり、やりたいことまでできなくなってしまう可能性があります。

では、不安を抱えつつも、苦手なことを克服するにはどうすればよいのでしょうか。その方法として、精神医学的に有効とされているのが「徐々に慣らしていく」ことです。本記事では、不安を克服する方法として知られる「系統的脱感作法(けいとうてきだっかんさほう)」について詳しく解説し、実生活に取り入れる方法を紹介します。

苦手なことは避けるべきか?

苦手なことは避けるべきか?

苦手なことや不安を感じることがあったとき、多くの人は「避ける」という選択をします。これは一時的にはストレスを回避できるため、安全な方法に思えます。しかし、長期的に見ると以下のような問題が生じる可能性があります。

  • できることの幅が狭くなる
    • 避けることを続けると、「自分には無理だ」と思い込んでしまい、新しいことに挑戦する機会が減ってしまいます
  • 「やりたいけれど苦手」なことまで避けてしまう
    • 例えば、「海外旅行に行きたいけれど飛行機が怖い」「人と話したいけれど対人不安がある」といった場合、苦手意識があることで本当にやりたいことまで諦めることにつながる可能性があります。

このような状況を避けるためには、「徐々に慣らす」ことが非常に重要です。では、この方法の背景となる理論について見ていきましょう。

「系統的脱感作法」とは?

「系統的脱感作法」とは?

理論の背景

「系統的脱感作法」は、もともとパニック障害の治療として用いられていた方法です。パニック障害の患者は、特定の状況で極度の不安や恐怖を感じ、身体的な発作を起こしてしまうことがあります。この治療法では、以下のようなステップを踏むことで、不安に慣れていくことを目指します。

  1. 軽度の負荷から始める
    • 例えば、「電車が苦手な場合」、最初は2分だけ乗ることから始め、次に4分、6分と少しずつ時間を伸ばしていく。
  2. 段階的に負荷を増やす
    • 徐々に強い状況に慣らしていくことで、最終的には問題なく電車に乗れるようになる。
  3. 幅広い不安に応用可能
    • この方法は、対人不安、社会不安障害、強迫性障害など、さまざまな不安症状の治療に応用されてきました。

しかし、これは病気の治療に限らず、一般的な生活の中で「不安を克服する方法」としても活用できます。では、どのように実践すればよいのでしょうか?

「徐々に慣らす」ための3つのポイント

「徐々に慣らす」ための3つのポイント

系統的脱感作法を効果的に実践するためには、次の3つのポイントが重要です。

① 徐々に行う

  • 急に強い負荷をかけない
    • 一気に強い不安にさらされると逆効果になることがあります。例えば、パニック障害の人がいきなり満員電車に乗ると発作を起こしてしまうことがあるように、「慣れる前に強いストレスを受けること」は不安を増幅させてしまいます。
  • 「少し不安だけど何とかなるレベル」から始める
    • 例えば、対人不安がある人なら、最初は家族や親しい友人と話すことから始め、徐々に他の人との会話の機会を増やしていくとよいでしょう。
  • 体のトレーニングと同じように考える
    • いきなり重いバーベルを持ち上げるのではなく、軽い負荷から徐々にトレーニングを進めるイメージで取り組むとよいでしょう。

② 休養とセットで行う

  • 不安に慣れるにはエネルギーを消費する
    • 苦手なことや不安なことに挑戦すると、心身に負担がかかります。そのため、「慣らす→休む」を繰り返しながら進めることが大切です。
  • 無理をすると逆効果
    • 体調が悪いときや、精神的に余裕がないときに無理をすると、かえってストレスが増えてしまい、さらに苦手意識が強まることがあります。コンディションが良いときに行うのがポイントです。

③ 動機付けをしっかり行う

  • すべての苦手を克服する必要はない
    • 世の中には、克服する必要のない苦手なこともあります。例えば、「絶叫マシンが苦手だから乗らない」というのは、特に生活に支障をきたすものではありません。
  • 本当にやりたいことに焦点を当てる
    • 重要なのは、「やりたいけど苦手」という場合に、この方法を活用することです。「海外旅行に行きたいけど飛行機が怖い」「仕事でプレゼンが必要だけど人前で話すのが苦手」といった場合は、ぜひ段階的に慣らしていくことで克服を目指しましょう。
  • 動機が明確だと継続しやすい
    • 例えば、「英語を話せるようになりたいから外国人と話す機会を増やす」「好きなアーティストのライブに行くために人混みに慣れる」といった具体的な目標を持つことで、モチベーションが維持しやすくなります。

まとめ

不安や苦手を克服するためのポイント

  • 不安や苦手なことは完全に避けるのではなく、徐々に慣らしていくことが大切
  • 「系統的脱感作法」を活用し、軽い負荷から徐々に慣れていく
  • 無理せず、休養とセットで行うことで安全に進める
  • 動機付けをしっかり行い、「本当にやりたいこと」に焦点を当てる

もし、あなたが「やりたいことがあるけれど不安や苦手意識がある」という場合は、ぜひこの方法を試してみてください。少しずつ慣らしていくことで、新しい可能性が広がるかもしれません。