知的障害がある人の暮らしにIQ【知能指数】は関係ない

知的障害は、知能検査で測定されたIQ(知能指数)、日常生活に必要な適応行動、そして概ね18歳までに発症するという3つの条件で診断されます。知的障害者の特徴は、一般の人々と異なる知的能力と生活の適応能力に見られます。

今回は、知的障害者の特徴を理解し、その診断基準となる知能テストや行動面についてわかりやすく説明していきます。

IQ -Intelligence Quotient-

IQとは、知能検査の結果で得られる精神年齢(MA)と生活年齢(CA)で割り、さらに100をかけた数値です。
精神年齢は、対象となる子供の知能テストの成績がどの年齢の平均点に当たるかを示します。生活年齢はその子供の実際の年齢です。
精神年齢と生活年齢が一致した場合、IQは100となり、これが標準となります。

知的障害の診断と特徴

知的障害の診断と特徴

知的障害は、「知能検査で特定されたIQ」「日常生活に必要な適応行動」「概ね18歳までに発症」の3つの条件から診断されます。
したがって、知的障害のある人々は「一般の人々と異なる知的能力」と「生活の適応能力」という特徴を持ちます。

知的障害は「軽度」「中度」「重度」「最重度」と分類されます。

軽度の知的障害

軽度の知的障害の特徴は次の通りです

  • IQが50-55から70程度
  • 幼児期の感覚運動の遅れはほとんど見られない
  • 小学校に入る頃までに対人的な社会的行動はできるようになるが、小学校に入ると読み書きや算数などの学業で通常の子供よりも遅れが見られる
    ※学習障害(LD)と異なる点は、上記の遅れが知能全般に見られるかどうか

小学校から中学校、高校への進学時や、学校を卒業して就職する時、さらには結婚して子育てをする時など、人生の転機には支援が必要となります。

中度の知的障害

中度の知的障害の特徴は次の通りです:

  • IQが35-40から50-55程度
  • 幼児期から、全身を使う行動や微細運動、コミュニケーション、日常生活の行動に発達の遅れが見られる
  • 周囲の人々や友達、大人との社会的な付き合いはある程度できますが、対人トラブルが起こる場合もある
  • 学校や仕事の技能についても学ぶことができる
  • 学校を卒業すると通所施設や支援を受けながら企業で働いている人もいる

日常生活では、必要な部分を支援してくれる人が必要ですが、適切な支援があれば、その人にとって自立した主体的な生活を送ることが可能です。

重度の知的障害

重度の知的障害の特徴は次の通りです:

  • IQが20〜25から35〜40程度で、日常生活においても支援が必要
  • 3歳以前に、全身を使う行動やコミュニケーション、細かい運動、日常生活の行動に遅れが見られることが多い
  • 学校では、日常生活を送るための指導が中心で、簡単な単語を読むことや道路標識を理解することが目標になる
  • 周囲の人々や友達、大人との付き合いは可能だが、対人関係での困難があり支援を必要とする場合もある
  • 仕事は通所施設が主流で、適切な支援を受けながら企業で働くことも可能

多くの人が日常生活で見守りや支援を必要としますが、適切な支援があれば地域社会の中で自立した生活を送ることもできます。

最重度の知的障害

最重度の知的障害の特徴は次の通りです:

  • IQが20-25以下
  • 全身を使う運動や微細運動、コミュニケーション、日常生活に必要な行動に発達の遅れが明確に見られる
  • 多くの場合、3歳以前に相談機関などで相談を受け、幼児期から成人に至るまで集中的な支援が必要となる
  • その人らしい生活を送るためには、介護者との個人的な関係を持てる環境が必要なことが多い
  • 適切な支援があれば簡単な作業を行うことも可能

日常生活では、ほとんどの人が集中的な支援を必要とします。

以上の「軽度」「中度」「重度」「最重度」の分類は、概ねの臨床像を理解するためには便利ですが、個々の人にどのような支援が必要かという視点で見ると、IQに基づいた分類だけでは不十分で個別の支援内容や方法を考える必要があります。

知的能力と知能テスト

知的能力と知能テスト

知的能力とは、推論、計画、問題解決、抽象的思考、複雑な考えの理解、速やかな学習能力を指します。
知能テストには、異なる内容を測定する様々なものがあります。

ウェクスラー式成人知能検査(WAIS)

ウェクスラー式成人知能検査は、言語性と動作性の2つの側面から知能を評価します。
言語性テストは、学習や経験を通じて得られた知識やスキルを中心に、記憶力、一般知識、語彙の豊富さ、社会的常識、概念理解などを測定します。
一方、動作性テストは、学習や教育の影響を比較的受けにくい、生まれ持った能力に基づくタスクを評価し、絵画配列、積み木模様、数字と記号の対応、絵画完成などの課題を含みます。

知能検査の結果は、以下のように分類されます

  • 130以上: 特に高い
  • 120-129: 高い
  • 110-119: 平均の上
  • 90-109: 平均
  • 80-89: 平均の下
  • 70-79: 境界域
  • 69以下: 知的障害

知能検査の得点には、検査の特性や実施方法による誤差が含まれるため、実際のIQは±3〜4ポイントの範囲内で変動することがあります。
たとえば、IQ70と評価されても、実際の値は66〜74の範囲内である可能性があります。

知的障害の診断で用いられるIQの境界値について、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)ではウェクスラー知能検査によるIQで65〜75の範囲が示されており、アメリカ精神遅滞学会の1992年の定義でもIQ70〜75が採用されています。
また、日本の厚生労働省の基礎調査で用いられた定義でも、誤差の範囲を考慮して「概ね」という表現が使用されています。

つまり、知的障害の診断において知能検査のIQ値を過度に信用することは、知的障害のある人を知的障害がないと判断したり、逆に知的障害のない人を知的障害者と誤って認識する可能性があります。
そのため、診断基準には知能検査の結果だけでなく、適応行動の基準も設けられています。

知能の見方には、独立したさまざまな知能があるという説と、それらに共通した知能があるという考え方があります。知能テストは、その共通した知能を測定していると考えられます。
ただし、知能テストがその共通した知能を完全に測定しているわけではありません。
アメリカの知的障害学会は、「知能テストは完全なものからは程遠いが、適切な検査によって得られたIQ得点によって、最もよく表される」と述べており、知能のすべての側面を測定できるものではありませんが、客観的な指標として使用されるべきだとしています。

「その人にどのような支援が必要か」を判断する際には、知能テストの結果よりも、その人の現在の状況や取り巻く人々の情報、地域社会の支援や支援ネットワークに関する情報がはるかに重要です。
一方で、知的障害者の把握や支援システムが確立されていない場合には、客観的な指標の一つとして知能テストの値を使用する必要性が生じることもあります。
そのため、知的障害のある人に対して知能テストの値を出すときには、なぜIQの値が必要なのかを十分に考える必要があります。

適応行動

適応行動

私たちは家庭や社会の中で、様々なことを学びながら、それらを活用して生活をしています。
そのような生活をする上での、必要な知識や技能をすべてまとめて「適応行動」と呼んでいます。

知的障害のある人の支援は、知能テストが開発される前は、善意のある人々が地域の中で普通の生活についていけない人々を引き受けて、一緒に暮らしながら援助をしていましたが、援助の手を差し伸べていた人々は、この適応行動といった面から、知的障害のある人を判断していたとも言えます。

適応行動は、家庭や社会で生活するために必要な知識や技能を指し、「概念的スキル」「社会的スキル」「実用的スキル」の3つに分けられます。
知的障害者に比較的よく見られる適応行動の内容は以下の通りです。

概念的適応スキル

  • 言語(受容言語と表出言語)
  • 読み書き
  • お金の概念
  • 自己管理

社会的適応スキル

  • 対人関係
  • 責任
  • 自尊心
  • 騙されやすさ
  • 純真
  • 規則を守る
  • 遵法
  • 被害者となることを避ける

実用的適応スキル

  • 日常生活技能(食事、移動/可動性、排せつ、着衣)
  • 日常生活に有用な活動(食事準備、家事、乗り物、服薬、電話の活用)
  • 職業スキル
  • 安全な環境の維持

知的能力と適応行動能力の関係について、知能検査と適応行動尺度の結果を基に見ると、不適応行動(問題行動)以外では、両者の関連はかなり高いとされています。

つまり、問題行動は知能のレベルに関係なく生じますが、日常生活での様々な適応行動を学習したり、学習した行動を実際に使う能力は、知的能力が低いほど困難と考えられます。

日本においては1973年に、入所施設の利用者を母集団として標準化した適応行動尺度(ABS)があります。
しかし、地域社会の人々を母集団として統計的処理をした適応行動尺度は存在していないため、知的障害の診断が十分にされていない状態が続いています。

最後に

以上が、知的障害の診断基準となる知能テストや適応行動についての説明です。

知的障害の診断においては、IQ値だけに依存するのではなく、適応行動や実際の生活状況を総合的に評価することが重要です。
これにより、個々の状況に応じた適切な支援が可能になり、より正確な診断と支援が実現します。