【躁うつ病セルフケア】軽うつ安定を受け入れる

はじめに

躁うつ病(双極性障害)は、うつ状態(気分が落ち込む状態)と躁状態(気分が高揚する状態)を繰り返す脳の疾患です。治療の基本は、気分安定薬による症状のコントロールと再燃予防ですが、治療が進み病状が安定した後も、患者本人にとっては「現在の状態がつらい」と感じることが少なくありません。

特に、治療がうまくいって「安定期」に入ったとしても、多くの場合は軽度のうつ状態(軽うつ)が続くことが多く、それに対する葛藤が生じることがあります。この葛藤に適切に対処できなければ、治療を中断したり、生活リズムを乱したりしてしまい、結果として再燃のリスクが高まってしまいます。

本記事では、躁うつ病の治療の流れと、安定期における患者の葛藤、その対処法について詳しく解説します。

躁うつ病の基本的な治療と安定期の課題

治療の基本方針

躁うつ病の治療は、大きく分けて次の2段階で進められます。

1. 気分の安定を図る(急性期治療)

  • うつ状態または躁状態の強い波を抑え、安定した状態へと導く
  • 気分安定薬(例:リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)を使用

2. 再燃予防(維持療法)

  • 症状が安定した後も、薬を継続して再燃を防ぐ
  • 生活リズムの安定を図り、再発のリスクを抑える

しかし、この安定した状態において、多くの患者が軽うつ状態にとどまり、「気分が晴れない」「生き生きとした感覚が戻らない」といった心理的な葛藤を抱えることが少なくありません。

安定期における3つの葛藤

安定期における3つの葛藤

安定した状態に達しても、多くの躁うつ病の患者が以下のような葛藤を抱えています。

いまいちパッとしない状態への葛藤

躁状態や軽躁状態では、頭の回転が速くなり、気分が高揚し、エネルギッシュに活動できます。しかし、治療によって安定すると、その時と比べて「パッとしない」「曇った感じがする」と感じることが多いです。

また、病気になる前の自分と比べても、気分が落ち込みがちであるため、「なんとか抜け出したい」という気持ちが強くなることがあります。

長く続く低め安定状態への葛藤

多くの場合、軽うつ気味の状態で安定するため、強い喜びや充実感を得にくくなります。そのため、変化の少ない毎日に「空虚感」や「虚無感」を抱くことがあるのです。

  • 「このままの状態でずっと生きていくのか?」
  • 「以前のように楽しめることが少なくなった」

といった思いが湧いてくることがあります。

躁うつ病になったこと自体への葛藤

  • 診断後に、社会的な立場が変わった(仕事の継続が難しくなったなど)
  • 長期的な服薬が必要になった
  • 以前の自分と今の自分を比べ、「病気がなければもっと違う人生だったのではないか」と考えてしまう

このような思いから、「何とか病気がなかったことにできないか」という気持ちが生じることがあります。

葛藤がもたらすリスクと対策

葛藤がもたらすリスクと対策

葛藤が治療に与える影響

これらの葛藤が強くなると、治療に悪影響を及ぼす可能性があります。

  • 薬の自己中断:「もう大丈夫だから薬をやめよう」と思い、気分安定薬を自己判断で中断すると、再燃のリスクが高まる
  • 生活リズムの乱れ:「何かを変えたい」と思い、無理に活動量を増やしたり、逆に過度に引きこもったりすることで症状が悪化する
  • 人間関係の不安定化:環境を変えたい気持ちから、無理に人間関係を変えようとし、トラブルが生じる

葛藤と向き合うためのヒント

治療を続けながら、安定期における葛藤を軽減するには、以下の考え方が役立ちます。

病気との折り合いをつける

焦らず時間をかけて、躁うつ病と向き合うことが大切です。「病気になったことで失ったもの」に目を向けるのではなく、「病気になったからこそ気づけたこと」「新しい視点が持てたこと」に注目すると、少しずつ受け入れやすくなります。

小さな楽しみを見つける

軽うつの状態では、大きな喜びを感じるのは難しいかもしれません。しかし、「ちょっとした楽しみ」や「穏やかに過ごせること」に価値を見出すことで、安定した生活に意味を感じやすくなります。

適度な刺激を取り入れる

全く変化がないと、虚無感が強まることがあります。無理のない範囲で、新しい趣味や軽い運動、読書など「少しの刺激」を取り入れることが大切です。

支援を受ける

心理カウンセリングやピアサポート(同じ経験を持つ人との交流)を活用することで、自分の気持ちを整理し、病気との向き合い方を見つけやすくなります。

まとめ

躁うつ病の治療では、気分安定薬を続けることが再燃予防の基本ですが、安定期においても「軽うつ状態が続くことによる葛藤」が生じることがあります。

この葛藤に適切に向き合わないと、薬をやめてしまったり、生活リズムを崩してしまったりすることで、再燃のリスクが高まります。

そのため、焦らず時間をかけて病気と折り合いをつけることが重要です。躁うつ病になったからこそ見えたことや、新しい価値観を大切にしながら、小さな楽しみを見つけ、安定した生活を続けることが、長期的な回復につながるでしょう。