ASDの発症には、複数の遺伝子変化の組み合わせによる多因子遺伝の影響が大きいとされています。遺伝子研究が進む一方で、環境要因についてはまだ明らかになっていないことが多いのが現状です。
今回は、ASDの原因について遺伝子や環境の観点から詳しく見ていき、発症のメカニズムについて理解を深めていきましょう。
ASDは一つの原因によるものではなく、人によって原因が異なると考えられています。
ASDの原因は、複数の遺伝子の塩基配列の変化の組み合わせと、何らかの環境要因が神経細胞のネットワーク形成に影響を及ぼすことで発症すると考えられています。

塩基配列とは、DNA上に並ぶ4種類の塩基の並びのことを指します。この配列が遺伝情報となっており、細胞分裂の際に塩基配列に誤りが生じると、遺伝子変異や遺伝子多型が発生します。
遺伝子変異の頻度が1%以下の場合を「遺伝子変異」、1%以上の場合を「遺伝子多型」と呼びます。
遺伝子の変化の頻度が低い場合、その変化が世代を超えて維持されにくく、頻度が高い場合は維持されやすいことを意味します。
繰り返しますが、複数の遺伝子の塩基配列の変化が組み合わさり、そこに何らかの環境要因が加わることで神経細胞のネットワーク形成に影響を与え、その結果、ASDとして共通する行動特性が現れると考えられています。発症に関与する遺伝子は非常に多く、500〜1000以上の遺伝子が関わっているとされています。
さまざまな遺伝子変化の組み合わせと何らかの環境要因が脳の発達に影響を与えることで、ASDとして共通する特性が生じると考えられています。

遺伝の影響を考える際には、遺伝子と遺伝の違いを区別する必要があります。特定の遺伝子変異や遺伝子多型が親から子に伝わる場合は「遺伝による場合」で、親にはない変化が子に生じた場合は「遺伝によらない場合」となります。後者は「de novo変異・多型」と呼ばれます。
ASDの発症に関わる遺伝子は非常に多くありますが、その変異や多型が単独でASDを発症させることは稀です。ほとんどの遺伝子変異・多型はそれぞれ異なる発症リスクを持ち、個人の遺伝子上にある発症リスクをすべて足し合わせたものがその人の発症リスクとなります。多因子遺伝とはこのように多数の遺伝子が関与する遺伝形式を指します。
多因子遺伝は、疾患の発症だけでなく身長や体重、血圧など多くの特徴に関わっており、ASDがASDでない状態と明確に区別できない連続体(スペクトラム)としての性質を持つことは、遺伝子や遺伝の観点からも示されています。
遺伝によらない遺伝子変化であるde novo変異は、その頻度は低いものの、単独でもASDの発症リスクが高いとされています。また、知的障害や運動発達遅滞、てんかんなどの合併症とも深く関わっていることが示されています。
脳は神経細胞の集合体であり、その活動の基盤は神経細胞の電気的活動がシナプスを介して次の神経細胞に伝達されることです。新生児期にはシナプスの形成は乏しいですが、生後には急速に膨大な数のシナプスが形成されます。脳の発達は、シナプスの形成による神経ネットワークの形成といっても過言ではありません。ASDの発症に関わる多くの遺伝子は、シナプスに存在するタンパク質の設計図であることが明らかになっています。これらのタンパク質は協力してシナプスを形成し、短期間で非常に複雑な神経細胞ネットワークを作り上げる役割を果たしています。
ASDの発症に関わる遺伝子は非常に多種多様であり、それぞれの遺伝子にどのような変化があるかについては個人差が大きいです。しかし、これらの遺伝子はシナプスを形成し脳を機能させる一つの大きな役割を果たしており、最終的には一定の共通性を持ち、ASDの特性をもたらしていると考えられています。
ASDの発症には環境要因も影響していると考えられますが、明確なことは少ないです。
現在、一定の関連性が示されているのは以下の通りです:

いずれも妊婦から出産までの間に起きる要因です。
生後の環境については、ASDの発症と明確に関連付けられる根拠はありません。一時期注目されたワクチンの保存剤チメロサールについても、関連性は否定されています。また、環境中の化学物質に関しても、現時点で明確な関連性は示されていません。ASDの発症に関わる環境要因については、多くの研究が行われてきましたが、環境による原因を説明する決定的な要因はまだ見つかっていません。
最近の大規模な研究では、1998年から2007年までにスウェーデンで生まれた全ての子供とそのいとこを含む家族を対象にした追跡調査が行われました。この研究の結果、ASDの発症は主に遺伝的および非遺伝的な遺伝子の変化で説明でき、子宮内環境がわずかに影響している可能性はあるものの、その他の環境要因の影響はほとんど見られないことが示されました。
以上がASDの原因についての説明です。
ASDの発症メカニズムは遺伝的・非遺伝的な遺伝子変化によってかなりの部分が説明されており、環境要因の影響は限定的な可能性があります。
今後の研究の進展による明確な結論が期待されます。