抜毛症【髪などを「やめたくても」抜いてしまう病気】

はじめに:「抜毛症」—髪を抜いてしまう病気

「抜毛症」という病気をご存じでしょうか。これは心療内科や精神科で扱われる疾患の一つであり、「髪を抜いてしまう」という行動が特徴的です。特に10代の若年層からの相談が多いですが、大人でもうつ病などの治療を受ける中で、抜毛症の症状を訴えるケースがあります。

今回は、この抜毛症について詳しく解説し、その背景や治療法についても触れていきたいと思います。

抜毛症とは(概略と定義、統計的要点)

まず、「抜毛症」とはどのような病気なのでしょうか。これは「自分でも分かっていながら、髪の毛や体毛を抜いてしまう」という特徴を持つ精神疾患です。

DSM-5(精神疾患の診断基準)における抜毛症の定義

  • A:繰り返し髪や体毛を抜き、その結果、脱毛部分が生じる。
  • B:毛を抜くことをやめよう、もしくは減らそうと試みるが、それが難しい。
  • C:その行為によって精神的苦痛が生じたり、社会生活に支障をきたす。

統計データからみる抜毛症 抜毛症の発症率は約2%とされ、特に10代から20代の若者に多く見られます。また、性別による違いでは、女性に多く見られる傾向があります。

抜毛症の2つの要素(自己治療と無意識の習慣)

抜毛症の2つの要素(自己治療と無意識の習慣)

抜毛症には大きく分けて2つの要素があるとされています。

  1. 緊張に対する自己治療(自覚型)
    • 抜毛することで痛みの刺激を受け、それが一時的に緊張やストレスを和らげる作用を持つ。
    • しかし、次第にその効果が薄れ、抜毛行動がエスカレートしてしまうことがある。
    • 初めは意識的に行っていたものが、次第に無意識に行うようになり、やめられなくなる。
  2. 無意識の習慣(無意識型)
    • 特に意識しなくても、気づいたら毛を抜いてしまっている。
    • 「やめたい」と思っても、無意識に繰り返してしまう。
    • これは強迫症状(強迫性障害)と似た特徴を持ち、「ついやってしまう」という点が共通している。

抜毛症の鑑別疾患

抜毛症と類似する疾患として、以下のようなものがあります。

  1. 強迫性障害
    • 抜毛以外にも、さまざまな強迫症状や強迫観念を持つ。
  2. 発達障害(ADHD、ASD)
    • ADHDの衝動性によって衝動的に抜毛してしまうケース。
    • ASDのこだわりの強さが原因で、習慣化するケース。
  3. 統合失調症
    • 妄想や幻聴の影響で毛を抜くケース(頻度は低い)。
    • この場合、抜毛症ではなく「統合失調症による抜毛症状」となる。

類似疾患:「皮膚むしり症」

抜毛症に似た疾患として「皮膚むしり症」があります。これは無意識に皮膚をむしってしまう疾患であり、抜毛症と同じようなメカニズムで発症すると考えられています。治療方法も抜毛症と類似しています。

抜毛症の治療

抜毛症の治療

抜毛症の治療には短期間での劇的な改善は難しく、時間をかけてじっくりと取り組むことが重要です。主な治療法として、以下の3つのアプローチがあります。

1. 薬物療法

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
    • 抜毛症が強迫性障害に近い特徴を持つため、抗うつ薬の一種であるSSRIが処方されることがあります。
    • ただし、強迫性障害ほどの効果は期待できないとの指摘もあります。
  • 漢方薬
    • 緊張を和らげる効果のある漢方薬が使われることもあります。
    • 副作用が少ない反面、効果が限定的な場合もあります。

2. 行動療法

  • 習慣逆転法(HRT:Habit Reversal Training)
    • 抜毛する場面や状況を観察し、意識的に抜毛を抑える方法。
    • 抜毛の代わりに、両手をふさぐ行動をする(例:物を持つ、手を動かすなど)。
    • 集中できる別の活動(趣味や運動)を見つけ、そちらに意識を向ける。

3. ストレス管理

抜毛症はストレスの影響を強く受けるため、日常的なストレス対策が重要になります。

  • ストレス対処法の習得(リラクゼーション、瞑想、深呼吸など)。
  • 環境調整(ストレスの少ない環境づくり)。
  • 生理周期などによる悪化を把握し、事前に対策を立てる。

周囲の対応—「圧力をかけない」ことが重要

抜毛症を抱える人に対して、周囲の人は「やめなさい」と圧力をかけるのではなく、温かく見守ることが大切です。

  • 本人は「やめたい」と思っているが、やめられない。
  • 過度なプレッシャーを与えると、逆にストレスが増し、症状が悪化する可能性がある。
  • リラックスできる環境を整え、安心感を与えることが望ましい。

まとめ

今回は、抜毛症について詳しく解説しました。

  • 抜毛症は「分かっていても、髪を抜いてしまう」病気。
  • 10代・20代の女性に多く、約2%の人が経験するとされる。
  • ストレスや緊張が要因となることが多く、治療には時間を要する。
  • 行動療法やストレス管理を取り入れ、長期的なアプローチが必要。
  • 周囲の人は圧力をかけず、理解しながらサポートすることが大切。

抜毛症は決して「意志が弱いから」起こるものではありません。適切な治療と環境調整を行うことで、少しずつ改善していくことが可能です。抜毛症に悩む方やそのご家族の参考になれば幸いです。